ドル建て終身保険は貯蓄効果の高い保険ですが、一方で、その貯蓄効果が吹き飛んでしまうくらいのリスクもある商品です。
いきなり脅すようなことをいってしまいましたが、もちろん加入する人や貯蓄の目的によっては、有効な商品であることも間違いありません。将来、ドル建て終身に入っておいてよかったと思うか、失敗だったと思うかは、ドル建て終身保険をちゃんと理解して、自分の目的にあっているかどうかを判断して加入したかどうかにかかってきます。
今、ドル建て終身保険を勧められている、あるいは検討しているという方は、ドル建て終身の失敗を防ぐためにも、ぜひ、そのメリットとデメリット、ドル建て終身保険を選ぶときの最低限のチェックポイントを知ったうえで、具体的な商品をお選びください。
目次
1. ドル建て終身保険はこんな保険
ドル建て終身保険は、「ドル建て」という言葉通り、円ではなくドルをベースにして作られた終身保険です。保険の機能としては、通常の終身保険と同じく、死亡保障が一生涯続く生命保険です。
なお、ここでいうドルは米ドルを想定して話をしていますが、豪ドル建ての終身保険についても基本的に同様です。
1-1. 保険料、積立金の運用、保険金の支払いが全てドル
ドル建て終身保険では、基本的に、保険会社はドルで保険料を受け取り、積立金をドルで運用し、保険金や解約した場合の解約返戻金をドルで支払います。
でも、自分はドルを持っていないし、日本円で保険料を払って日本円で保険金をもらうけど、どういうこと?という方は、語弊はありますが、アメリカの終身保険に加入するようなイメージだと思ってください。
たとえば、保険料はドルでいくらと決まっているので、契約者が保険会社に保険料を支払うときには、その都度、そのときのドル=円レートで保険料を円換算して支払います。保険金を受け取るときも、ドルで支払われる保険金をそのときのドル=円レートで換算して日本円で受け取ります。
もちろん、ドル資産を持っている人がドルで保険料を支払ったり、将来ドルで保険金を受け取るということも可能です。
このようにドル建て終身保険は、そのしくみがドルでできている保険です。
1-2. ドル建ての理由は、円よりドルの方が金利が高いから
ドル建ての終身保険ができた理由は、円よりドルの方が金利が高いからです。日本では何年も低金利が続いていて、生命保険会社としても、普通の円建ての終身保険では十分な貯蓄性をもたせた商品をつくれません。しかし、ドルで保険を作れば、ドルで運用できるため予定利率が高く貯蓄性のある保険にすることができます。
1-3. その他の機能
ドル建て終身保険は、商品によりますが、死亡保障を切り替えて年金を受け取れるものがあります。
またドル建て終身には、一時払商品があります。一時払は、保険料を月々払うのではなく契約時に一括して支払うタイプなので、円高が進んだときに契約し、円安になったときに解約すれば外貨投資商品として活用することもできます。
1-4. ドル建てだからこその3つの注意点
終身保険という生命保険自体のしくみは、ドル建てでも円建てでも変わりはありません。しかしドル建ての場合は、保険会社とのお金の受け渡しに際してドル⇔円での両替が必要になります。そのことで、注意しなければならないことがあります。
(1) 支払う保険料の額が変わる
ドルベースの保険料は一定ですが、為替レートの変動により日本円に換算した保険料は変わってきます。日本円に換算した保険料は、円高になれば安くなり円安になれば高くなります。急激に円安が進んだ場合は保険料負担が重くなる場合があるので注意が必要です。
(2) 受け取る保険金や解約返戻金の額が変わる
ドルベースの保険金や解約返戻金は決まっていても、為替レートの変動により日本円に換算した額は変わります。保険金や解約返戻金の額は、受け取るときに円高になっていれば少なくなり、円安になっていれば多くなります。元本割れになる場合もあるので注意が必要です。
(3) 為替手数料がかかる
保険料や保険金・解約返戻金の受け渡しに際して、ドル⇔円の両替をしたときには為替手数料がかかります。円建ての保険にはないコストを負担することになるので注意が必要です。
2. ドル建て終身保険のメリット
ドル建て終身保険のメリットには次のようなものがあります。
- 円建てに比べて貯蓄効果(ドルベースで見て)が高い
- 保険金・解約返戻金等を受け取るときに円安になっていると受取額が増える
- 資産運用という側面でみると、ドル資産に分散投資することになる
- ドル資産を保持することになるので、将来、円の価値が下がってもリスク分散になる
3. ドル建て終身保険のデメリット
ドル建て終身保険のデメリットには次のようなものがあります。
- 為替変動により支払う保険料が変動する(高くなる場合もある)
- 為替変動により受け取る保険金、解約返戻金の額が減少し、元本割れするリスクがある
- 為替手数料などのコストがかかる
4. ドル建て終身保険が向いている人、向いていない人
これまでみてきたように、ドル建て終身保険はドルという通貨だけで考えると終身保険です。しかし、契約する人は日本人で、大部分の人が日本円でのお金の授受が必要となります。そのときには、どうしても為替レートの影響を受けざるを得ないので、そこで大きく為替リスクを負うことになります。
たとえば、過去の為替レートの変動をみると、1ドル=80円になったり1ドル=120円になったりと上下に大きく変動しています。80円から120円では50%価格が変動したことになります。
このような商品特性があることを考えると、ドル建て終身保険が向いている人と向いていない人がいるといえます。
<ドル建て終身保険が向いている人>
・余裕資金を長期的に運用したい人
・自分の資産を円だけでなく外貨に分散して保有したい人
・将来、海外に移住したり、子供が海外留学するときの資金を貯めたい人
・投資として将来の円安に備えたい人(予想が外れても受け入れられる人)
・為替リスクを正しく理解している人
<ドル建て終身保険が向いていない人>
・将来、必要な金額が決まっていて足りないと困るような資金を貯めたい人
・絶対に損したくない人
・為替リスクを正しく理解していない人
・途中で保険料が上がると支払えなくなる可能性がある人
5. ドル建て終身保険を選ぶときの3つのチェックポイント
ここまでみてきたドル建て終身保険の為替リスクについて理解した上で、加入したい場合は、具体的に保険商品を選ぶときに以下の点をチェックするようにしましょう。
5-1.積立利率、または解約返戻金の返戻率
ドル建てでの積立利率や解約返戻金の返戻率を比較しましょう。これらの数字が高いほうが、貯蓄効果が高い商品といえます。
5-2.為替手数料
保険料の支払や保険金・解約返戻金の受け取りにあたってドル=円の両替が発生しますが、このときに保険会社に支払うことになる為替手数料がいくらかを比較しましょう。保険会社によって為替手数料の額に差があり、たとえば、1ドルにつき0.01円(1銭)のところもあれば0.5円(50銭)のところもあります。長期の契約の中で、この手数料の差が貯蓄効果に影響を及ぼします。
5-3.保険金の据え置き
保険金が出たときに、すぐに受け取らずドルのまま預けておくことができる保険があります。このような保険であれば、たとえば、保険金を受け取るときが円高なので、しばらくドルのまま据え置いておいて将来円安になったときに受け取るということができます。
6. まとめ:リスクは高いが、外貨に分散した資産づくりができる
ドル建て終身保険は、ドルベースでみると円建ての終身保険よりも貯蓄性の高い保険です。しかし、為替レートの変動により、支払う保険料や将来受け取る保険金が大きく変動します。したがって、為替の動向によっては大きく保険金が増えることもあれば、逆に減ってしまうこともあります。
このような商品特性・リスクを理解して、将来の円安にそなえるための分散投資をしたい人、外貨資産を蓄えたい人にとっては有効な商品といえます。
ただし、もし遺族への保障としてドル建て終身保険を検討している場合は、保険金が目減りするリスクがあることにご注意ください。
※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。
※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。