老後資金や年金の問題が大きく取り上げられ、老後のための自助努力が強調される昨今。はたして自分は老後資金を貯められるのか不安に思っている方は多いのではないでしょうか?
そうした将来の老後資金を準備するための制度として、公的年金以外に用意されているのが「個人年金保険」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。名前の通りどちらも年金の一種ですが、仕組みや税制上の優遇などでさまざまな違いがあります。
今回はこの2つの制度について、それぞれの仕組みやメリット・デメリットから両者を併用する際のポイントまで詳しく解説していきます。
目次
1.個人年金保険とiDeCo、それぞれの仕組みとメリット・デメリットは?
自分用の年金を貯めていく方法として、個人で加入する「個人年金保険」と「iDeCo」があります。この2つはよく比較されますが、それぞれどんな特徴があって、いったいどちらが得なのでしょう?それを解き明かすため、まずは、それぞれの仕組みとメリット・デメリットから見ていきましょう。
2.個人年金保険の仕組みとメリット・デメリット
まずは、個人年金保険についてみていきましょう。
2-1.個人年金保険の仕組み、種類は?
個人年金保険とは、保険料を一定期間(10年、30年、60歳までなど)支払い、契約時に決めた年齢(60歳、65歳など)から所定の年金を毎年一定額受け取る仕組みの保険です。個人年金保険と一言にいっても、さまざまな種類があります。
■受け取り期間による分類
確定年金 | 被保険者の生死にかかわらず契約時に決めた一定期間(例えば10年確定年金なら10年間など)、年金を受け取れるタイプのこと。年金受け取り期間中に被保険者が亡くなった場合には、遺族が年金または一時金を受け取ることができる。もしも年金受け取り期間より前に契約者が亡くなった場合には、それまで払い込んだ保険料相当額が死亡保険金として支払われる。 |
---|---|
有期年金 | 被保険者が生存していることを条件に、契約時に決めた一定期間、年金が支払われるタイプ。被保険者が亡くなった時点で支払いは終了する。もしも年金受け取り期間より前に契約者が亡くなった場合には、それまで払い込んだ保険料相当額が死亡保険金として支払われる。 |
終身年金 | 被保険者が生存している限り年金が支払われるタイプ。受け取り期間の終期は決まっておらず、被保険者が亡くなった時点で年金の支払いが終わる。遺族に対する死亡保険金はない。もしも年金受け取り期間より前に契約者が亡くなった場合には、それまで払い込んだ保険料相当額が死亡保険金として支払われる。 |
※保証期間がついている有期年金と終身年金の場合、保証期間中に死亡しても残りの保証期間の年金または一時金が支払われる。
■運用方法による分類
定額年金 | 定額年金とは、その名のとおり契約時点で受け取る年金額が決まっているタイプ。保険会社の運用成果に関わらず受け取る年金額は決まっているので、損をする心配はない。中には契約当初の予定利率が一定期間ごとに見直されるものもあるが、その場合でも年金額に最低保証がある。 |
---|---|
変額年金 | 変額年金は、その名のとおり受け取る年金が運用により変動するタイプ。運用は保険会社が行うが、その結果次第では払い込んだ保険料よりも受け取れる年金が下回る可能性も。年金受け取り前に被保険者が亡くなった場合には、死亡給付金が支払われる。この死亡給付金に関しては、運用の成果に関わらず亡くなった時点で払い込んだ保険料相当額が最低保証される商品が多くなっている。 |
さらに、個人年金保険には「円建て」と「外貨建て」があります。円建ては安定的な一方で利回りは低く、外貨建ては、利回りは高いものの為替変動によって元本割れする可能性があるなど、リスクが高めです。
2-2.個人年金保険のメリット
個人年金保険には、以下の3つのメリットがあります。
2-2-1.銀行預金よりも有利
定期預金の金利が年0.01~0.02%など、現在は超低金利です。商品によりますが、インフレが起きなければ定期預金よりは個人年金保険で積み立てを行うほうが、最終的な受取額は多くなることが期待できます。
個人年金保険は加入時期を早める、あるいは年金の受け取り開始時期を遅くすることにより返戻率がアップするので、そういった工夫をできればさらに有利に。円建ての確定年金を選ぶことで契約時に受け取る年金額を予め把握することもできます。
2-2-2.途中解約しにくい
保険の場合、保険料を口座振替で支払うのが一般的です。口座から自動的に保険料が支払われ、引き出しもできないため、銀行預金のように「つい使い込んでしまう」という心配がないことも利点。個人年金保険は途中解約すると元本割れのリスクが高まるため、それが解約の抑止力になるともいえます。
とはいえ、損をすることを納得した上であれば保険の解約はいつでも可能。このあと解説をするiDeCoは原則60歳までお金を引き出せないので、それと比較すれば解約の自由度は高めです。
2-2-3.個人年金保険料控除で税金軽減
個人年金保険では、「個人年金保険料控除」という税金面でのメリットが得られます。ただし、それには保険料の払込期間(10年以上)や年金の支払い開始年齢、支払期間、年金の受取人等の条件に合致する個人年金保険である必要があり、それに「個人年金保険料税制適格特約」を付加することで控除の対象となります。対象になると所得税が最大4万円、住民税が最大2万8000円軽減されます。この控除は生命保険や医療保険等の控除とは別枠となります。
2-3.個人年金保険のデメリット
個人年金保険には、以下の2つのデメリットがあります。
2-3-1.途中解約で損をする
個人年金保険のデメリットの1つは、途中解約をすると損をしてしまうということ。解約時には解約返戻金が戻ってきますが、基本的に払込済みの保険料を下回ります。加入から3カ月程度で早期解約した場合、払込済み保険料の半分以下になってしまう場合も。解約はできるものの、基本的には解約をしないことを念頭に加入すべき保険といえます。
2-3-2.インフレに弱い
また、円建ての確定年金の場合はインフレに弱いという側面も。決まった金額が受け取れるのは安心ですが、受け取る時点でインフレによる物価高となっていた場合に、実質的な受取額の価値が下がってしまいます。
さらに万一加入している保険会社が破綻した場合、契約条件が変更になり、予定されていた保険金が受け取れない可能性があります。破綻のリスクはそう大きくはありませんが、心に留めておいた方がよさそうです。
3.iDeCoの仕組み、メリット・デメリット
次に、iDeCoについてみていきましょう。
3-1.iDeCoの仕組みは?
iDeCoとは「個人型確定拠出年金」のことで、自分のための年金を自分で積み立てる制度です。制度自体は以前からありましたが、2017年1月の改正で会社員、自営業者問わず幅広い人が加入できるようになり、その名が一気に広まりました。なお、職業や収入によって積立額(掛金)の上限が異なります。
毎月5,000円から1,000円単位で積立額を設定し、そのお金を積み立てていきます。iDeCoで選べる金融商品には元本確保型(定期預金、保険)と元本変動型(投資信託)があります。
元本確保型は満期時の元本と利息が確保され、安全性が高いのがポイント。その代わり、運用でのリターンはほとんど期待できません。
一方の変動型は、加入者が投資信託(銘柄)を選択して購入し、あとの運用はプロに任せます。運用によるリターンが期待できますが、一方で資産が目減りする可能性もあります。元本確定型、元本変動型を含め、どの商品をどれだけ購入するかの配分は加入者が指定します。
3-2.iDeCoのメリット
iDeCoには、税金面で2つのメリットがあります。
3-2-1.税金メリットが大きい
では、iDeCoのメリットを整理していきましょう。最大のメリットは税金面での圧倒的なお得度。積立時・運用時・受取時のタイミングでそれぞれ手厚い優遇を受けることができます。なかでも積立時の節税メリットは大きく、毎月の掛金の全額が丸ごと所得控除の対象に。老後の資産を積み立てながら、所得税と住民税を軽減することができます。このメリットは年収が高いほど大きくなります。
3-2-2.運用益も非課税
また通常は金融商品の運用で得た利益に対しては20.315%の課税がされます。しかしiDeCoの場合はこれが全額非課税に。10万円の利益を得た場合、通常は2万円強が税金で持っていかれてしまうのに対し、iDeCoの場合は10万円を丸々手にすることができます。
さらに、積み立てた資金を60歳以降で受け取る際には、一括で受け取ると「退職所得控除」が、年金形式で受け取ると「公的年金控除」が適用され、一定額までは非課税となります。
3-3.iDeCoのデメリット
iDeCoのデメリットは以下の2つです。
3-3-1.60歳まで引き出せない
iDeCoのデメリットとしてまず挙げられるのは、原則60歳まで資金を引き出せないこと。これは、あくまで老後資金を自分で貯めるための制度だからです。なお60歳までの加入期間が10年未満の場合、受け取り開始がさらに後ろ倒しになる点には注意が必要です。
3-3-2.資産が目減りするリスクがある
また、iDeCoの運用商品として元本変動型の投資信託を選んだ場合には、運用によって資産が目減りするリスクがあります。投資信託の中でも低リスクなものを選んだり、元本確保型を選ぶこともできるので、自分の運用方針をしっかり決める必要があります。
口座を維持するための手数料が必ずかかる点にも注意が必要です。税金優遇のメリットを考慮すれば手数用のせいで損をするとは考えにくいものの、加入時にかかる2,829円以外に、収納手数料や事務委託手数料、口座管理手数料として毎月171円+αがかかることは覚えておきましょう。
4.それぞれに向いている人は?結局どちらがお得?
ここまで見てきたメリット・デメリットを踏まえて、個人年金保険とiDeCoを比較してそれぞれどういった人が向いているのか、どちらがよりお得なのかを考えていきます。
4-1.個人年金保険に向いている人
個人年金保険は、どちらかというとリスクを取らず、着実にお金を貯めたい人向けです。前述の通り個人年金保険にはいろいろな種類がありますが、王道である円建ての確定年金を選ぶことで、決まった金額を受け取れます。受取額の変動がない分、将来の計画が立てやすいのは大きな利点。
税金面のメリットはiDeCoには及びませんが、条件にマッチした商品ならば一般の保険料控除とは別枠で個人年金保険料控除を得られます。早期解約をすれば元本割れのリスクがありますが、それであっても、何かのときのためにお金を引き出せる(解約できる)ほうがいいという人も個人年金保険のほうが向いているでしょう。
4-2.iDeCoに向いている人
iDeCoに向いている人は、多少のリスクをとっても将来受け取るお金を増やしたいと考える人。非常に有利な税制優遇を受けつつ、投資信託での運用を選択すれば運用益を狙うこともできます。どの投資信託にどのように配分するか決めれば、あとはプロに運用を任せることができますが、とはいえ商品の選択や配分を誤れば損をすることも。投資に対する多少の勉強は必要なので、それを面倒だと思わない人。
また、60歳までは解約できない(掛金の拠出は停止できるのが資金を引き出せない)ので、それでも困らない人、さらに、年収が高い人ほど税金面(所得控除)でのメリットが大きいので、高収入で所得税率が高い人もiDeCoに向いています。
どちらが得かといえば、税金面ではiDeCoのほうがお得です。とはいえ運用に失敗すればトータルでは損をする可能性もあるでしょう。個人年金保険ならばどんな種類の商品を選ぶのか、iDeCoならばどの金融商品で、どう運用するのか。選択肢はさまざまなので、一概に「どちらが得」と結論づけるのは難しいといえます。
5.個人年金保険とiDeCoは併用できる?
「どちらも使って両方のメリットを享受したい」という場合はどうでしょう。個人年金保険控除は生命保険控除の一部で、iDeCoの運用時の控除は小規模企業共済等掛金控除です。控除の種類は重複していないので、併用は可能です。
iDeCoの掛金は全額が所得控除となるので、積立額の上限内で多く積み立てるほどお得です。一方で個人年金保険は、所得税の場合は保険料が8万円を超えると控除は一律4万円、住民税の場合は5万6000円の保険料を超えると控除は一律2万8000円です。ですから税金面で考えれば、併用をする際にはiDeCoを優先し、残りのお金を個人年金保険に回すほうがお得です。ただし繰り返しになりますが、税金面以外のメリット・デメリットを考慮することも必要です。
6.まとめ:併用も可能!自分の性格や将来を考えて選択を
ここまで、個人年金保険とiDeCoについて解説をしてきました。それぞれにメリット・デメリットがあるので、ただお得かどうかだけで考えるのではなく、自分の性格や将来の計画についても合わせて考えることが大切です。これら2つは併用もできるので、上手に活用しながら老後資金を準備していきましょう。
※本記事は、2019年10月時点の情報をもとに作成しています。
金融を専門とする編集・制作プロダクション。多数の金融情報誌、ムック、書籍等で企画・制作を行う。保険、身近な家計の悩み、投資、税金、株など、お金に関する幅広い情報を初心者にもわかりやすく丁寧に解説。
※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。
※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。