老後2000万円問題とその対策について、家計再生コンサルタントの横山光昭氏(株式会社 マイエフピー代表取締役)にお話を伺ってきました。
前回の記事では、老後に2000万円不足するというのはどういうことかを解説していただきましたが、第2回目は「老後資金2000万円で足りる人足りない人」と題して、家族構成やライフスタイル・ライフプランなどにより、老後に必要な資金に差があることを解説していただきました。
目次
1. 前回のおさらい
まずは、第1回目でお話ししたテーマについて思い出してみましょう。
「老後2000万円不足」問題は、結局、「絶対に足りない」ということではありませんでした。
ただし、これからは人生100年時代に突入する可能性が高いことや、統計データからみたおおよその平均から考えると、月々5万円が不足し、それが30年と考えるとおおよそ1800万円が不足しますよ、というのが概略でした。
計算上5万円が足りないとなれば、5万円節約して生活しようとする人もいるでしょう。
逆に5万円分を補足する手段を考えようとするにしても、貯蓄なのか、投資なのか、もしくは働くことでそれを補おうとするのか人それぞれのはずです。
要は人々のライフスタイルは多様化しており、以前のように完全に当てはまるモデルケースというものが、なかなか見つけにくくなっているのだと思います。
それはそうでしょう。人生100年時代というのは、人類始まって以来の出来事なのですから。誰もそんな時代に生きたことがないのですから、想像するしかありません。
ここで大事になるのは、あなたが老後にどんな生き方をしたいか? ということです。
今回は、もう一歩踏み込んで、それぞれの家計レベルに合わせた老後資金の予測について考えてみたいと思います。
2. 3つのモデルケースからみた老後予測の違い
モデルケースとして、AさんからCさんまで、3つの家族について事例をあげて、家計の収支やライフプランによって老後にお金がどれくらい足りなくなるかを見ていきましょう。
(1)公的年金だけでもそこそこやっていけそうな人
まずは、もしかすると「公的年金だけでもそこそこやっていけそう」という人のモデルケースです。
<家族構成>
- 夫(45歳、会社員、年収600万円)
- 妻(専業主婦)
- 子2人(中学3年生、小学6年生)
<家計・資産>
- 手取収入 約31万円/月
- 支出 約27万円/月
- 貯金 530万円
- 家 持ち家
手取収入が月々約31万円、支出は約27万円なので、約4万円があまっています。
<年金受給後の家計>
■将来、Aさん夫婦に受給される年金額
- 夫 約17万円
- 妻 約5.8万円
⇒ 夫婦合計 約22.8万円
一方で老後の支出については、子どもたちの教育費などもなくなり、約22万円あれば足りそうです。
これならば、たとえ年金収入だけになっても毎月8千円のプラスが出ます。30年であれば288万円を、年金暮らしをしながら貯金できる家計です。
リフォームや介護、大きな病気をしたときのための予備費1000万円を入れても712万円あれば良いわけで、現在の貯金が530万円ですから、あと182万円ほど老後資金を足していければ、生活が成り立つ計算です。もし退職金が出るなら、十分に生活していけるという予測が立つのではないかと思います。
(2)高年収でも、老後にお金が不足しそうな人
次に紹介するのは、老後の貯蓄が2000万円あっても足りない家計のモデルケースです。
家計再生コンサルタントになってから、さまざまな相談を受けることで感じてきたことですが、実は収入が多いほど問題が深刻なケースが多いようです。
代表例を掲載します。
<家族構成>
- 夫(42歳、会社員、年収1300万円)
- 妻(42歳、専業主婦)
- 子2人(高校2年生、中学3年生)
<家計・資産>
- 手取収入 約55万円/月
- 支出 約50万円/月
- 貯金 400万円
- 家 持ち家
手取収入が月々約55万円、支出は約50万円なので、約5万円があまっています。
<年金受給後の生活>
■将来、Bさん夫婦に受給される年金額
- 夫 約22万円
- 妻 約6万円
⇒ 夫婦合計 約28万円
支出については、子どもの教育費がなくなります。ただし、その分の12万円を差し引いても約38万円はかかると試算しました。
この場合、単純計算ですが毎月10万円の赤字となります。30年で計算すると3600万円の不足。これまでのケース同様に予備費の1000万円を加えると、4600万円が足りないという試算です。
このように、現在の収入が高い人であっても家計の状況によっては老後資金が大きく不足する可能性があります。もちろん、それに見合う資金を蓄えていけばいいわけですが、思い通りに進まなかったことも考えると、生活水準の引き下げも念頭においてほしいと言わざるを得ません。
(3)賃貸住宅の影響で赤字になりそうな人
最後にもっとも一般的なモデルケースも掲載しておきましょう。
これまでのケースは、2例とも持ち家であったことにお気づきでしょうか?
次は、賃貸住宅にお住いの場合について紹介します。賃貸住宅に住み続ける場合は、老後に家賃が響くケースが多いようです。
<家族構成>
- 夫(36歳、会社員、年収450万円)
- 妻(38歳、会社員、年収250万円)
- 子1人(5歳)
<家計・資産>
- 手取収入 (夫)約23万円/月、(妻)約13万円/月
⇒ 夫婦合計 約36万円 - 支出 約38万円/月
- 貯金 500万円
- 家 賃貸
現在の支出は月々約38万円で、約2万円の赤字家計で、夫婦のボーナスで回しているのが現状です。
<年金受給後の生活>
■将来、Cさん夫婦に受給される年金額
- 夫 約16万円
- 妻 約10万円
⇒ 夫婦合計 約26万円
支出については、子どもの教育費の負担がなくなるとしても、家賃を含めた約33万円はかかると試算しました。
さて、単純計算ですが毎月7万円の赤字ですから、30年で計算すると2520万円の不足。これまでのケース同様に予備費の1000万円を加えると、3520万円が足りないという試算です。
このように夫婦で年収700万円ある家庭でも、家賃の支払いがあると、こうした計算になるのが現状です。月々夫婦で27万円という年金額も、決して少なくはないでしょう。それでも、今と同じ生活を続けるのには、年金だけでは、約3500万円足りないのです。
もちろん、これは概算ですから、老後は高齢者用の安い賃貸物件に移り住むなどして家賃を軽減する方法もあるでしょう。
3. 最後に
今回は、収入や生活スタイルの違う3つのモデルケースについて、老後の収支の試算をしてみました。単純に年収の高低だけでは、老後の生活資金の過不足については判断できないことがわかりました。
ただし、いずれのケースについても老後に備えた何らかの防衛策が必要なことは、おわかりいただけたのではないかと思います。
その防衛策として考えられるのは、次の3つです。
- 年金以外に収入を得る方法を考える
- 支出をコントロールする術を身につける
- 投資などの運用をする
これらの3つは、どれか1つを選ぶということではありません。3つとも実践すれば、より万全に近づくでしょう。特に2については、どんな状況になっても身につけておいて損はありません。
次回は、この支出をコントロールする術について、詳しく述べたいと思います。
【横山FPに聞く老後の備え方】
・第1回『「老後2000万円不足」のウソ、ホント』|横山FPに聞く老後の備え方
・第3回『お金を使い方で分けてみる「消・浪・投」』|横山FPに聞く老後の備え方
・第4回『iDecoを活用して老後に備える!』|横山FPに聞く老後の備え方
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