奨学金が返せない!? 猶予制度で延滞を防ごう

2022-04-06

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いま、奨学金の延滞が社会問題化しています。実質賃金の減少や非正規雇用の増加など、さまざまな要因で発生してしまう延滞。

この記事では、日本学生支援機構の奨学金にスポットライトを当て、延滞予防策である猶予制度について紹介していきます。

1 .国が実施する日本学生支援機構の奨学金

この記事で取り上げるのは、国の奨学金制度である日本学生支援機構(JASSO)の奨学金。まずは、事業の概要について確認していきます。

1-1.日本学生支援機構とは

2004年に発足した独立行政法人日本学生支援機構(以下JASSO)。それまで日本人学生への奨学金貸与事業を運営していた「日本育英会」と留学生交流事業などをおこなっていた4つの団体が合併して誕生しました。学生に対する奨学金事業や留学支援、外国人留学生の就学支援を行っています。

1-2.学生の約4割が利用する奨学金

JASSOの奨学金事業は、専修学校の専門課程(専門学校)、高等専門学校(高専)、短期大学、大学、大学院に在籍する学生が対象。これらの高等教育機関で学ぶ348万人のうち127万人、36.5%が利用しています(2019年度実績)。所得の低い人でも「教育の機会均等」を享受できるように、セーフティネットとして存在するのが、JASSOの奨学金です。

1-3.返還が必要な奨学金は?

JASSOが運営する奨学金制度には、2018年度からスタートしたばかりの給付奨学金と、多くの学生が利用する貸与奨学金があります。返還が必要になる貸与奨学金は、2種類に分けられます。

一つは、経済的理由で修学が難しい、特に優れた学生が対象の第一種奨学金。無利息で貸与されます。もう一つは、第一種よりも選考基準が緩やかな第二種奨学金で、3%を上限とした利息が課されます。いずれも、原則として各教育機関を卒業した月の翌月から数えて7か月目(3月卒業の場合は10月)から、毎月の返還がスタートします。

2.奨学金延滞の実情

近年、このJASSO奨学金の延滞が話題に上るようになりました。どのくらいの割合で延滞が起こっているのか、また、延滞に至る理由について考えてみます。

2-1.延滞はどのくらいある?

JASSOの奨学金事業のうち、返還されるべき債権の額は7兆5,134億円。その2.8%に当たる2,069億円分の奨学金について、3カ月以上にわたって返還が滞っています。(2020年度実績)。

2-2.なぜ延滞している?

延滞が続いてしまう要因について探ります。JASSOの「令和元年度 奨学金の返還者に関する属性調査結果(以下、属性調査)」から、「延滞が継続している理由」(複数回答可)を見てみます。延滞が継続している理由は、「本人の低所得」(62.7%)が最も高く、「奨学金の延滞額の増加」(42.6%)、「本人の借入金の返済」(29.3%)が続いています。

所得が少ない状況が継続していることが主因となり、奨学金の延滞額や、金融機関などからの借入金が膨むことで、さらに追い打ちをかけられてしまうことが浮き彫りになっています。返還者本人が早い段階で行動を起こすことで、この悪循環を止めることができます。

3.延滞を防ぐ「返還期限猶予」と「減額返還」

前の章で確認したように、奨学金の延滞が続いてしまうのは、経済的理由がほとんどであることがわかりました。ここでは、返還が難しくなった場合に必ず利用したいJASSOの制度について紹介します。

3-1. 返還を待ってもらえる「返還期限猶予」

返還が困難になり、月々の返還を待ってほしい場合に利用できるのが、返還期限猶予制度です。返還を一定期間猶予してもらい、その分返還完了を延長できる制度で、15万人以上が利用しています(2019年度実績)。

対象は、災害や病気・ケガ、失業、経済困難給与所得者の場合は年収300万円以下、給与所得以外の所得を含む場合は200万円以下)などが理由で返還が難しくなった方。その他にも、新卒1年以内で、未就職や低収入、大学院などへの入学準備中といった場合や、産前・産後休業もしくは育児休業に入っているケースなども対象になります。

適用期間の限度は通算10年(120か月)。1年ごとに所定の書類を提出して申請し、審査により承認される必要があります。返還予定総額そのものが減免されるわけではなく、適用期間が終わると返還が再開されます。

3-2. 月々の負担を減らす「減額返還」

決められた月々の返還金額を減らせば返還ができる場合に利用できるのが、減額返還制度です。毎月の返還額を1/2もしくは1/3に減額してもらえる制度で、3万人以上が利用しています(2019年度実績)。

対象となるのは、災害や傷病、その他の経済的理由年収325万円以下、給与所得以外の所得を含む場合は225万円以下)で返還が難しくなったケースです。返還猶予は延滞者でも申請可能ですが、減額返還の場合は延滞していると申請できないので注意が必要です。

適用期間の限度は通算15年(180か月)。1年ごとの申請・審査を経る必要があります。少額でも返還を継続できるので、返還猶予と比べて将来の負担を軽くできるメリットがあります。また、返還予定総額そのものが減免されるわけではありません。

3-3. いざという時のために制度への理解を

問題は、これら猶予制度についての理解が進んでいないことです。JASSOの属性調査によると、延滞者のうち、猶予制度を「延滞督促を受けてから知った」(54.0%)、「知らない」(21.9%)という人が、合計で75%を超えています。

これらの延滞者が、予め猶予制度を知り、申請する機会があれば、「延滞スパイラル」に陥ることはなかったはずです。延滞を防ぐためには、猶予制度の理解を深めておき、いざというときに適切に利用することが大切です。

4.まとめ:「返せない!」と思ったらすぐに相談を

日本の学生の約4割が利用するJASSOの奨学金ですが、そのおよそ3%ほどが延滞の状態になっていることがわかりました。経済困難で返還が滞ってしまうことが多く、延滞金や借金が膨らむことで、さらに返還が難しくなってしまうパターンも少なくありません。

じつは、筆者もJASSOの奨学金を返還しています。奨学金がなければ、大学を卒業することはできませんでした。月々の負担は決して軽くありませんが、現役の奨学生たちのためにも、延滞することなく返還を完了できればと思っています。

完全とは言えないかも知れませんが、「返還猶予」「減額返還」の制度は、延滞を防ぐための有効な手段です。「返せないかもしれない」と思ったら、すぐにJASSOに相談することをおすすめします。

佐藤 史親 (編集者・ライター)執筆:佐藤 史親 (編集者・ライター)
1987年山梨県富士吉田市生まれ。タウン紙記者、雑誌編集者として勤務後、フリーの編集者・ライターに。モットーは、きめ細かな取材・調査に基づいた記事づくり。お金に関する話題も、わかりやすくお届けします。

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