政府は2020年度から国家公務員の男性職員に対して、原則1ヶ月以上の育児休業の取得を促す方針を打ち出した。男性の「月単位」の育休が広がることで、人事評価制度の一部が見直されるのではないかと注目している。
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目次
1.公務員男性、月単位の育休取得へ
政府は2020年度から国家公務員の男性職員に対して、原則1ヶ月以上の育児休業の取得を促す方針を打ち出した。男性の「月単位」の育休が広がることで、人事評価制度の一部が見直されるのではないかと注目している。
現在のところ、男性の育休の大半は1週間程度で、評価に影響の無い範囲が多い。月単位の育休を取得する男性もあらわれ始めているが、復帰後は左遷されてしまうこともあるようだ。
「女性の活躍推進」政策の後押しもあり、女性も男性も育休を取得できるようにはなってきた。しかし、相変わらず労働時間の長さが評価につながりやすい企業が多く、復帰後のキャリア形成については「あくまで自己責任で」という印象が否めない。
2.「生産性」という評価軸を
経営側から見れば、ブランク無く業務に邁進する社員は戦力として期待しやすい。また、労働時間を確保できて「量」をこなせることは重要であり、時間をかければ「質」を上げられることもある。
一方で、これからは「生産性」という評価軸も必要ではないか。例えば、同程度の「量」かつ「質」のタスクについて、生産性の低い社員は残業が必要でも、生産性の高い社員は残業が必要なければ、後者には残業代というコストがかからない。それは評価に値するのではないか。
また、裁量労働制など、残業代という概念のない雇用制度であっても、急速にAI化が進展する中、「生産性」の概念無しには、グローバル化の進む企業間の競争には勝てないだろう。「量」や「質」を時間で補えば良いという旧来型の働き方を卒業する時だ。
「生産性」評価は、仕事と育児の両立を図る女性だけでなく、男性にも、また、介護との両立でも必要な観点だ。
今、介護の状況は様変わりしている。2000年代初頭は、同居の主たる介護者の首位は「嫁」であったが、今では「息子」が「嫁」を上回る[図表1]。
育児との両立は無縁でも、親の介護との両立をしなくてはならない男性が増えている。ここで例えば、介護との両立のために短時間勤務をしている男性が、卓越したマネジメント能力を有し、1日に数時間でも指揮を取れば組織の好業績を導ける場合、その「生産性」の高さは評価されるべきではないか。
3.大卒女性の生涯所得は2億円
夫が育休を取得すると世帯収入が減ってしまう家庭は多い。しかし、夫が育休を取ることで生涯所得は大きく増える可能性がある。
夫が家事・育児に協力的であるほど、妻は仕事を続けている[図表2]。妻の復職時に夫が育休を取ることで、妻のスムーズな復職を促せるだろう。
大学卒女性の生涯所得は、2人出産し、育休を各1年間、時間短縮勤務を下の子が小学校入学前まで利用したとしても、平均2億円を超える。一方、出産退職し、子育てが落ち着いた後にパートで再就職すると約6千万円だ。
たとえ夫の育休期間中は世帯年収が減ったとしても、妻が働き続けられるのであれば、世帯の生涯所得は遥かに増える。
ただし、家庭の様々な事情によっては、目先の世帯収入を優先せざるを得ないこともある。本来は育休の取得や、その期間は自由に選択できるべきだ。
一方で、多様な人材が活躍できる環境整備に向けては、旧来型の慣習や制度を見直す必要がある。そのためには、やはり、これまでマジョリティーであった男性の働き方を大きく変えることが効果的だ。「働き方改革」過渡期の現在では、個別の事情に配慮しながらも、まずは大きく舵を切ることが求められる。
<研究・専門分野> 消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング
若者や女性、共働きやパワーカップル、子育て世帯などを中心に、消費行動の特徴やその背景にある働き方、恋愛や結婚、出産、子育ての状況、価値観の変化について分析し、政策課題にも言及しています。
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