出産で多くの医療費がかかった場合、健康保険の高額療養費制度は使えるのでしょうか?
結論からいうと、なんのトラブルもなく自然分娩で出産した場合は高額療養費の対象にはなりません。しかし、帝王切開や吸引分娩、鉗子分娩などは、それらにかかった医療費は高額療養費の対象となります。
このように出産に関しては、高額療養費の対象になる場合や、逆にならない場合もあって判断がややこしい感じがしますが、実は簡単な見きわめ方があります。
また、たとえ高額療養費の対象にならなかったとしても、そのほかにも公的な給付はありますので、経済的な面いついてはご安心ください。
この記事では、出産における高額療養費の判断基準や制度を利用するときのポイント、その他の公的給付などを整理してわかりやすくお伝えしていきます。ぜひお読みいただき、出産費用に関する疑問を解消してください。
目次
1.高額療養費制度の対象となる出産・ならない出産
出産には大きく分けて、高額療養費制度の対象となる出産とならない出産があります。
1-1.帝王切開や吸引分娩などは対象となる
帝王切開、吸引分娩、鉗子分娩など、いわゆる「異常分娩」に分類される出産となったときの医療費は、「治療」とみなされるため健康保険が使えて3割負担ですみますし、高額療養費の計算対象となります。
- 帝王切開
- 吸引分娩
- 鉗子分娩
- 骨盤位分娩 など
なお、帝王切開の場合の健康保険適用や医療保険の保障については、「帝王切開は保険適用!その費用と民間の医療保険での備え方」をご参照ください。
1-2.自然分娩は対象外
一方、通常の出産は病気ではないため、自然分娩による出産で治療となるような行為がなかった場合は健康保険も適用されず、出産費用は高額療養費の対象にはなりません。
1-3.高額療養費の対象かどうかの簡単な判断基準
これまでの説明からおわかりいただけたと思いますが、出産時の異常分娩や妊娠中については切迫早産・切迫流産などで治療のためにかかった費用に関しては健康保険が適用される、すなわち高額療養費の対象となります。
そもそも高額療養費は健康保険の一制度であり、保険診療の自己負担額が高額になったときのための制度でもあります。したがって「健康保険が適用される費用」しか対象にはならないのです。
具体的な判断方法としては、病院の領収書をみて「保険診療の治療として表示されている費用」が高額療養費の対象となると判断ができます。
2.高額療養費制度と利用するときのポイント!
それでは、異常分娩などで疾病の治療として医療費が多くかかり、高額療養費制度を利用する場合にはどうすればよいのでしょうか?
この章では高額療養費が適用される条件や申請方法、さらには医療費の支払い額を少なくするためのポイントについて解説します。
2-1.高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、入院や通院、手術などで医療費の支払いが高額になった場合に、1ヵ月の自己負担額を一定額まで減らすことができる健康保険の制度の一つです。
2-2.1ヵ月の自己負担限度額
高額療養費制度には、1ヵ月に支払う医療費(自己負担額)に上限があり、その上限を超える支払いがあった場合には超えた分の金額が戻ってきます。
例えば平均的な所得の会社員の世帯では、1ヵ月の自己負担額が約8万円程度(健康保険適用外の費用は除く)におさまるようになっています。
自己負担限度額は以下の計算式にあてはめて算出されます。
■1ヵ月の医療費の自己負担限度額(70歳未満)
所得区分 | 自己負担限度額 | ||
---|---|---|---|
(年収の目安)※1 | (実際の区分) | (計算式) | (目安の金額) |
約1,160万円~ | 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:総所得901万円超 | 252,600円+ (総医療費-842,000円)×1% | 約25万円 |
約770万~1,160万円 | 健保:標準報酬月額53万~79万円 国保:総所得600万~901万円 | 167,400円+ (総医療費-558,000円)×1% | 約17万円 |
約370万~770万円 | 健保:標準報酬月額28万~50万円 国保:総所得210万~600万円 | 80,100円+ (総医療費-267,000円)×1% | 約8万円 |
~約370万円 | 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:総所得210万円以下 | 57,600円 | |
住民税の非課税者等 | 35,400円 |
※1 所得区分をわかりやすくするために目安の年収を示していますが、実際は年収によって区分が分かれているわけではありません。
なお、高額療養費に1年に4回以上該当する場合は多数該当といって、さらに自己負担額は軽減されます。
2-3.申請方法
高額療養費は、健康保険組合や共済組合によっては申請しなくても自動的に支給されますので、その場合の手続きは不要です。
一方、それ以外の健保組合や協会けんぽ、国民健康保険などでは申請が必要となります。
その場合の申請方法は以下のような流れとなります。
(1)申請書の入手~提出
まずは健康保険の保険者から高額療養費の申請書を入手します。なお、国民健康保険では、多くの自治体は高額療養費に該当する場合に申請書類を送ってきてくれるようです。
申請書に必要事項を記入したら、医療費の領収書などの必要書類とともに保険者へ提出します。
(2)高額療養費の振込み
保険者が申請内容について確認・審査等を行った後、指定した口座に高額療養費が振り込まれます。医療費の支払いがあってから実際に高額療養費が振り込まれるまでは、一般的に3ヵ月くらいかかります。
細かい申請方法は加入している健康保険により違ってきますので、詳しくは勤務先の健康保険の担当者や国民健康保険の場合は役所の担当部署にご確認ください。
2-4.出産で高額療養費制度を利用するときのポイント
出産等で高額療養費を利用するときのポイントについて解説します。
2-4-1.対象となるのは3割負担分の医療費だけ
高額療養費の対象となる医療費はあくまでも健康保険の適用となる費用(3割負担分)のみで、それ以外の医療費は対象となりません。
例えば、正常分娩の出産費用のほか、個室や少人数部屋等に入院したときにかかる差額ベッド代等も高額療養費の対象外です。
- 正常分娩時の出産費用
- 入院食中の病院の食事代
- 個室や少人数部屋の差額ベッド代
- 入院中の日用品代等
- 健康保険適用外の診療費用(自由診療等)
- 先進医療の費用
2-4-2.他の病院の費用や家族の医療費も合算できる
高額療養費の計算をするときには、同じ月にかかった他の病院での医療費や、家族がいる場合は家族の医療費も合算することができます。出産に関連した費用だけでは規定の額に届かない場合でも、その他の医療費もすべて足して該当すれば高額療養費を受けることができます。
高額療養費の自己負担限度額と合算についての詳細は『「高額療養費」を最大限活用する完全ガイド|過剰な医療保険は不要!』をご覧ください。
2-4-3. あらかじめ事前申請ができる
事前に高額な医療費がかかると分かっている場合(帝王切開となることが分かっている場合など)は、前もって限度額適用認定の申請を行うことで、病院の窓口での支払いを自己負担限度額までにすることもできます。
申請方法は以下の通りとなります。
(1)申請書の入手
健康保険の保険者から限度額適用認定の申請書を入手します。保険者のWEBサイト等から申請書をダウンロードできるところもあります。
(2)申請書の記入・提出
限度額適用認定の申請書に必要事項を記入して、保険者に提出(郵送または持参)します。
(3)限度額適用認定証の交付
申請から限度額適用認定証が送られてくるまでは、数日~1週間程度かかります。国民健康保険の場合、各自治体で窓口申請すると、即日交付してもらえる自治体もあります。
3.高額療養費制度が使えなくても他の給付があるから大丈夫!
自然分娩による出産で高額療養費が適用されない場合は、高額な出産費用を自己負担しなければならないのでしょうか?
その点はご安心ください。大丈夫です!出産についての費用は他の制度により、軽減されるようになっています。
3-1.出産育児一時金
出産育児一時金とは健康保険の給付の一つです。健康保険の被保険者やその被扶養者が出産したときに、1児につき42万円が支給されます。(妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度対象出産ではない場合は、40万4千円)
この出産育児一時金により、通常の出産費用の多くは補うことができます。
出産育児一時金の利用方法については、「出産育児一時金の直接支払制度の利用法と使えない場合の対策」をご参照ください。
3-2.出産手当金
出産手当金も健康保険の給付の一つです。被保険者が出産のために会社を休んで給料をもらえなかった場合に支給されます。
出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前の42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休んで給与の支払いがなかった期間が支給対象となります。
支給額は、だいたいその人の給料の2/3にあたる金額です。
1日あたりの金額 = 【支給開始日の前12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額】 ÷ 30日 ×(2/3)
出産による収入の減少を補う制度です。
3-3.育児休業給付
育児休業給付は雇用保険の給付の一つです。原則、1歳に満たない子の子育てのために育児休暇を取った場合に、育児休業期間について通常の給料の約3分の2(休業期間により違う)を受け取ることができます。女性だけでなく男性も申請することができます。
なお、女性で健康保険の出産手当金の対象となる期間については、育児休業給付は受けることができず、出産手当金の期間が終了してからの給付となります。
育児休業給付は、育児休暇の取得から1ヵ月ごとに支給され、支給額は休業開始から6ヵ月間は月給の67%(上限301,902円)、6ヵ月経過後は50%(上限225,300円)となっています。
申請は働いている会社を通して行います。
育児休業給付の内容については「雇用保険|失業以外でも使える3つの給付の活用マニュアル>3. 子育て休暇中の育児休業給付[雇用保険]」もご参考ください。
4.まとめ:健康保険適用の出産費用は高額療養費の対象
出産にかかる費用には、高額療養費の対象になるものならないものがあります。対象となる費用としては、異常分娩などのために受けた治療行為に対する医療費等があげられます。
何が対象で何が対象でないかわかりにくそうですが、その簡単な判別方法は、健康保険が適用になっているかどうかです。健康保険が使えた医療費は高額療養費の対象となる費用として合算することができます。
なお、出産に関しては高額療養費の対象にならなかったとしても、基本的に出産育児一時金という給付があるため、社会保障があると考えてよいでしょう。妊娠、出産については、経済的な面でも何かと不安を感じたり悩まれたりすることもあると思いますが、各種社会保障制度を利用できますので、安心して出産を迎えてくださいね。
※この記事の情報は2022年3月時点のものです。
1975年福岡県北九州市生まれ。SEOやPPC広告運用、コンテンツ企画からライティングも行うサッカー大好きなコンサルタント。書籍も多数執筆。金融システムの開発や保険サイトに携わった経験から、保険や金融の有益な情報を届けします
※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。
※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。