年金の繰上げ受給はデメリット大!注意すべきポイントとは?

2022-09-28

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老後の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金(厚生年金加入歴がある人のみ)の二つからできています。老齢基礎年金は原則65歳から受けられ、老齢厚生年金は年金加入歴や生年月日、性別などにより決められた年齢から受けられることになっています。

ただし、希望すれば本来の受給開始年齢よりも早く年金を受け始めたり、65歳からの年金を66歳以後に後ろ倒しして受けることもできるようになっています。

本来の受給開始年齢より早く年金を受け始めることを「繰上げ受給」、65歳からの年金を後ろ倒しすることを「繰下げ受給」といいます。

これから2回にわたって、この「繰上げ受給」「繰下げ受給」についてのポイントを解説していきたいと思います。今回は「繰上げ受給」についてご紹介したいと思います。

1.年金を早くもらえる!繰上げ受給とは?

年金は生年月日などに応じた受給開始年齢が定められていますが、60歳になれば本来の受給開始年齢にかかわらず年金をもらい始めることができます。これを年金の繰上げ受給といいます。60歳以降に手続きをすれば、1ヶ月単位で年金を早めてもらうことができます。

老後の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金からなっていますが、原則として同時に繰上げ受給することになっています。生年月日などにより65歳前の老齢厚生年金(「特別支給の老齢厚生年金」)がある人の場合、定められた特別支給の開始年齢より早くもらい始める場合は同時繰上げ、特別支給の開始年齢到達後に老齢基礎年金の繰上げをする場合は、老齢基礎年金のみの繰上げ受給となります。

■年金繰上げのイメージ

2.繰上げ受給はデメリットが多い!

繰上げて年金を受ける場合、早くもらえるのはよいのですが、減額などのさまざまな制約があり、必ずしもお得とは言えない制度になっています。以下、繰上げ受給によるデメリットを詳しく見ていきましょう。

2-1.年金額が減額される

年金を繰上げて受給した場合の一番のデメリットとして年金額の減額があげられます。繰上げをすると、本来の支給開始年齢から何ヶ月早くもらい始めたかによって減額率が計算されます。具体的には1ヶ月前倒しするごとに、0.5%の減額となります。

例えば65歳からもらえる老齢基礎年金を60歳ちょうどから受けるとすると、5年=60ヶ月前倒しなので、60ヶ月×0.5%=30%の減額となります。本来の年金額が年額70万円とすると、70万円-(70万円×30%)=49万円に減額されてしまいます。

2-2.年金の減額は一生続き、後で変更できない

2-1.で計算された減額率は、一度決定されると一生ついて回ります。後で繰上げ受給の取り消しや変更もできません。ある程度もらえば元に戻るなどということももちろんありません。結果としていつまで年金をもらうか(=いくつまで生きるか)によって損得が発生します。

2-3.障害年金が受けられないことも!?

身体や精神に障がいを負ってしまった場合、障害年金を受給できる可能性がありますが、繰上げ受給後に障がいを負ったケースなど障害年金が対象外となってしまう場合があります。障害年金は、非課税であるなど老齢年金より有利ですが、繰上げ後はかなり受給できる間口が狭まってしまいますので、障害年金を受けられる可能性がある場合は注意が必要です。

2-4.遺族年金と繰上げ受給の老齢年金は65歳まで一緒にもらえない

年金繰上げ受給の手続きを取った直後に配偶者が亡くなり、遺族年金をもらえるようになったケースなどで問題になります。65歳までは繰上げ受給の老齢年金と遺族年金はどちらか片方を選んでもらうことになりますので、遺族年金の方が多ければせっかく繰上げしても自分の老齢年金はもらえないことになります。

その後65歳になると遺族年金は多くの場合減額となり、自分の年金と一緒にもらうことになりますが、この時もらえるようになる自分の老齢年金は繰上げで減額された年金額となります。もらっていないのに減額されるということと、繰上げ受給の老齢年金は、遺族年金の減額分よりも少ないケースがあります、その場合は65歳からはトータルの年金受給額が減額となるという結果になります。

2-5.寡婦年金の権利がなくなる

「寡婦年金」とは、国民年金の第1号被保険者として一定以上の保険料を納めた夫が亡くなった場合、一定の条件を満たすとその妻に支給される金です。原則として60歳から65歳になるまで受けられますが、繰上げ受給をすると寡婦年金を受ける権利がなくなってしまいます

2-6.長期特例、障害者特例に該当しなくなる

65歳前の「特別支給の老齢厚生年金」が受けられる人が特例に該当すると、「定額部分」というプラスアルファ年金を受けられます。特例は2種類あります。

一つは44年以上厚生年金に加入して退職した場合の「長期特例」、もう一つは年金の障がい等級1級~3級に該当している人が退職した場合の「障害者特例」です。

この特例に該当する前に繰上げ受給してしまうと、特例に該当しなくなってしまいます。人によっては減額率以上に不利になる場合もありますので、気を付けましょう。なお、すでにこの特例の条件を満たしている人が繰上げ受給する場合は、多少有利な計算となる「一部繰上げ」となります。

3.在職中の繰上げ受給に要注意!さらなるデメリットも!

在職中に繰上げ受給を開始すると、さらにデメリットがある場合があります。厚生年金加入中の人が年金を受けると、年金額と給与の額によっては年金が減額となる「在職老齢年金」の制度や、雇用保険の給付との調整制度があるからです。

せっかく繰上げをしても、給料の額などによっては年金を減らされたり、最悪の場合厚生年金部分がゼロになってしまうこともあります。一方で、年金を減らされても繰上げによる減額率が軽減されることはありません。在職中の繰上げ受給は、より慎重に検討する必要がありそうです。

4.繰上げ受給の損得の分かれ目はいつ?

繰り上げ受給をして、早い時期から少しずつ年金を受けるのと、繰り上げをせず通常通り受け取るのとでは、どちらがよいのでしょうか?長生きをすればするほど、両者の総受給額の差は縮まり、やがては通常通り受け取るほうが総受給額が多くなります。

いつごろ総受給額が逆転するかはその人の年金加入歴や生年月日によって異なりますが、一般的には繰上げて年金をもらい始めてから16年8ヶ月~16年9ヶ月後となるケースが多いです。60歳からもらい始めたら77歳の手前、63歳からなら80歳の手前で損益分岐点を迎え、あくまで総受給額の上ではその後は長生きすればするほど「損」ということになります。

例えば60歳の平均余命は、男性約24年(84歳)、女性約29年(89歳)となっているので、統計上は繰上げ受給すると損をする人の方が多いということになります。

5.繰上げ受給にはメリットもある

ここまでデメリットを見てきましたが、もちろんメリットもあります。一番のメリットは何といっても60歳以降なら年金の受給資格さえ持っていれば手続きをするだけでそれなりの金額が受けられることです。急な失業などで少しでも早く確実に収入を得たい場合など、頼りになる場面もあるでしょう。

どちらかというと損をする可能性が高いこと、様々なデメリットがあることを理解したうえで、比較的若いうちから年金を受け、それを使って人生を楽しむといった考え方ももちろんアリです。

また、将来高額な年金が受けられる人は、税金、医療・介護保険などの保険料や自己負担割合が高額になってしまうことがあります。年金があと少し少なければ住民税が非課税となり、自治体によっては様々な恩恵を受けられるという人もいるでしょう。このような場合に繰上げ受給をすることであえて年金を減らすということも考えられます。ただし、現行制度ではうまくいったとしても将来の制度改正次第ではただ年金額を減らしただけの結果となることも当然ありますので、慎重に検討したいところです。

6.まとめ:年金の繰上げ受給にはデメリットが多い!必要がなければ避けたほうが無難

人生100年時代と言われる昨今、老後のお金はなるべく多い方が安心できるのではないでしょうか。その意味で、早くもらえるとはいえデメリットも多く、老後の生活資金を目減りさせてしまう繰上げ受給は、必要がなければ避けた方が無難と言えそうです。

あとは人それぞれの考え方や家計の状況と相談しながら、なるべく希望に沿った形で、楽しいセカンドライフを過ごしていけるような選択をしたいところですね。

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執筆:綱川 揚佐 (社会保険労務士)
年金は身近な制度であるにも関わらず様々な誤解がある。年金相談会や年金セミナーなどを通して誤解を払拭すべく努めている。正確な、偏らない、わかりやすい年金情報を心掛け記事をお届けしてまいります。
 

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