ここ数年、外貨建て保険の加入者からの苦情が急増しています。
外貨建て保険は日本円より高い海外の金利で運用されるため、円建てよりも受け取る保険金額が増える可能性がある一方で、さまざまなデメリットも存在します。保険の内容をよく理解しないまま、担当者に勧められるとおりに加入すると、後で後悔することになるかもしれません。
そうならないよう、ここでは加入前に知っておくべき仕組みやリスクをご紹介していきます。
目次
1.外貨建て保険への苦情はなぜ増えている?
はじめに、外貨建て保険の苦情件数の推移とその内容についてみていきます。
1-1.外貨建て保険の苦情件数は4年で2.7倍に!
生命保険協会が発表した「外貨建て保険・年金に係る苦情受付件数」によれば、2014年度には922件だった苦情件数は、2019年度には2,822件と、この5年でおよそ3倍にもなっています。
日本は今、過去に類を見ない超低金利であり、円建ての貯蓄型保険の利率も過去最低レベルとなっています。そのため、「日本よりも金利水準の高い国の通貨で運用することで、より大きな貯蓄効果が期待できる」という特徴から、銀行等代理店での外貨建て保険の販売が増えており、それに伴い相対的に苦情が増えているわけです。
■外貨建て保険・年金の苦情受付件数(銀行等代理店を発生原因とするもの、新契約関連苦情)
最近7年間 | |||||||
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2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
苦情件数 | 922 | 1,239 | 1,665 | 1,888 | 2,543 | 2,822 | 1,866 |
出典:生命保険協会
1-2.理解不足が原因!外貨建て保険の苦情の実態
苦情は主に高齢者やその親族からで、「預金だと思っていたら保険だった」「元本保証だと思ったら違った」など、外貨建て保険の内容についてよく理解しないまま、契約をしてしまったケースが多く見られます。
本来は、保険について十分に理解できていることを担当者が確認した上で契約をして然るべきですが、この苦情件数の多さは、結果としてそれが出来ていないということを実証しているといえます。
苦情の実態が露わになり、金融庁は販売方法の改善やガイドラインの策定を要請しています。とはいえ、やはり自分の身は自分で守ることも必要。どんな保険であれ、勧められるがまま加入してはいけないというのは当然として、外貨建て保険の仕組みやメリットとデメリットの両面をきちんと理解しておく必要があります。
2.外貨建て保険の仕組み・メリットとは?
続いては、外貨建て保険の仕組みとメリットを解説します。
2-1.外貨建て保険の仕組み
外貨建て保険とは、保険料が外貨で運用される保険のことを指します。種類は、保険金や解約返戻金が受け取れる終身保険や年金保険、養老保険で、掛け捨ての保険はありません。
2-2.外貨建て保険のメリット
「外貨建て」という名のとおり、日本円を米ドルや豪ドルといった外貨に換えて、保険料として支払います。基本的には、死亡保険金や解約返戻金も支払った国の通貨で受け取ることになるため、通貨の値動きによって受け取る金額も変わります。
前述のとおり、日本は低金利で予定利率も低水準なことから、円建て保険での貯蓄性には期待ができない状況です。その点、外貨建て保険では、日本より高い金利水準を維持している国の通貨で運用することで、貯蓄性を高めることが可能です。
その他には、円建てに比べて保険料が割安であることや、保険として保障を得ながらも外貨資産を持てること。また、これは外貨建てに限りませんが、個人年金保険料控除や生命保険料控除といった、税制優遇を受けられることもメリットといえるでしょう。
3.外貨建て保険のデメリット、注意すべき点とは?
メリットがある一方で、外貨建て保険にはデメリットもあります。これらの理解が足りていないことが、現在の苦情につながっていると言えます。
加入を検討するときには、以下の3つの点について十分に注意しましょう。
3-1.円高で受取金額が減少!為替変動に要注意
1つ目は、為替変動の影響を受けること。
外貨投資の鉄則は、「円高で買って円安で売る」。つまり外貨を売る際、買ったときよりも円安であれば為替差益により得をしますが、買ったときよりも円高だと、為替差損が生じます。
同様に、外貨建て保険では、保険金等の受取や解約時に契約時(保険料支払時)よりも円安であれば受取金額は増加しますが、円高であれば減少することになります。高金利によるメリットはあるものの、為替相場の状況によって、受取額が元本割れしてしまう可能性も十分あるので、その点をしっかりと理解する必要があります。
こういった点の理解不足が苦情につながっていると考えられます。
3-2.外貨と円の交換に為替手数料がかかる
こうした受取時の為替リスクに加えて注意したいのが、外貨と円を交換する際に発生する為替手数料です。為替手数料とは、円を外貨に替えるときのレート(TTS)と、それをまた円に戻すときのレート(TTB)との差額のこと。通常、銀行の両替では、払込時(円→米ドル)に1円、受取時(米ドル→円)に1円といった形で2回かかるのが一般的です。
外貨建て保険の場合はもう少し安いものもありますが、このコストは保険会社ではなく契約者が負担し、保険会社や通貨によりかなりの差が見られます。円建てではかからない手数料が、外貨建ての場合にはかかるということも、覚えておくべきポイントです。
3-3.円貨では元本保証されない
なお、外貨建て保険を元本保証だと勘違いしてしまう人がいますが、外貨建て保険でいう元本保証とは、運用する外貨建てでの元本が保証されるという意味であり、為替の動向によっては円に戻す際に元本割れするリスクがあります。本来の意味での元本保証ではないということも、理解する必要があります。この点を勘違いすることも苦情の原因といえるでしょう。
こういったことから、元本が目減りするリスクを考慮しても積極的に資産を増やしたい場合には外貨建て保険は選択肢になり得ますが、そもそも元本割れの可能性がある商品は選びたくない、という場合には、選択肢に入れないのが無難です。
4.加入する場合は支払い方法やタイミングに注意する
デメリットを考慮した上で加入する場合にも、資産が目減りするリスクはできるだけ抑えていきたいところです。保険料の支払い方法のうち一時払いと分割払いでは、加入時の為替レートがもろに影響する一時払いよりも、分割のほうが為替変動リスクは低減できます。ただし、分割の場合はトータルの保険料はやや割高となる点には注意が必要です。一時払いを選ぶのであれば、円高から円安に進むという局面で加入するのがベストです。
また、保険料の受け取り方を選べる商品ならば、満期金や解約返戻金を両替せずに据え置き、円安になったタイミングで売ることもできるので、こういった商品を選ぶのも一案でしょう。
このように外貨建て保険の仕組みを理解すれば、元本割れリスクを避けることも可能となります。
5.まとめ:外貨建て保険のリスクを理解して検討しよう
円安になれば為替差益が狙えるなどのメリットがある一方で、円高が進めば為替差損が発生するリスクがあり、コストも高めなど、外貨建て保険にはリスクやデメリットもあります。
例えば、「銀行の窓口から勧められるのだから損はしないだろう」などと安易に契約するのは禁物。仕組みやリスクを理解した上で加入の判断をし、加入をする際には保険料の支払い方や保険金の受け取り方法もしっかりと考えることが大切です。
現在、どんな苦情があるのかを知ることで、失敗しない保険選びにつなげることができます。
※本記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています。
【外貨建て保険選びの参考記事】
・外貨建て保険はどれだけ危険?|本当のリスク&加入時の注意点
・リスクがこわい!?ドル建て終身保険選びの3つのチェックポイント
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