わたしたちの身の回りにはさまざまなリスクがあり、それに対応する保険の種類も多種多様です。普段「保険」と呼んでいるものには、人の生死に関わる「生命保険」と事故等に関わる保険「損害保険」の二つに大分されます。
そのうち生命保険に関して現在はとくに若い人において、その加入率が低い傾向になっています。実際、加入しなくても大丈夫なのか、生命保険文化センターの調査結果から、生命保険への加入の実態と保障に対する考え方を探ってみましょう。
目次
1. 生命保険加入率はとくに若い世代で低い傾向が顕著になっている
ここ30年の生命保険加入率の調査を見ると、全体の加入率はおおむね80%前後で推移しています(調査対象の「生命保険」は、死亡時に保険金が支払われる死亡保険のほか、医療保険、介護保険、養老保険を含んでいる)。これは諸外国に比べると高い水準となっています。
■平成28年度生命保険加入率
出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」
1-1. 20代の加入率は50%台
ただし、20代の若い人たちに限ってみると生命保険加入率は低い水準となっています。たとえば20代の加入率は、下記グラフのように平成16年以降55%前後であまり変わっておらず、ほぼ80%を超える他の年代より低い水準です。
■20代の生命保険加入率
出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」
同調査の男女別の数値を見ても、男性の加入率は、平成16年度で56.6%、平成28年度では58.2%。女性の加入率は、平成16年度では55.8%で、平成28年度では53.2%。性差はほとんどありません。
年によって多少の上下動はありますが、20代の約4割が無保険の状態にあることがわかります。
1-2. 20代が保険に加入しない背景
こうした若年層での生命保険加入率の低さは、社会人になっても、結婚や出産などのきっかけがあるまでは保険に加入しない傾向、低所得で不安定な非正規雇用者の増加や所得の伸び悩み、晩婚化・少子高齢化など、複合的で様々な要因を考えることができます。
1-3. 20代の保険、独身なら不要でも結婚後は必要
生命保険は死亡や病気・けがなどに備えるために加入するものなので、死亡や病気のリスクが低い若年層で必要性を感じていない人が多いのは理解できます。とはいえ、リスクが少ないからといって加入する必要が全くないということにはなりません。たとえ少ない可能性であっても、万一のときに困ったことにならないために入るのが生命保険です。
万一のときの備えという視点から考えると、若くて貯蓄の余裕がない人こそ、いざというときに困る可能性が高いので、保険が必要といえます。もちろん20代で独身者の中には自分に万一のことがあっても困る家族はいないという場合もあります。そうしたケースでは、無理に保険に加入する必要性は低いといえるでしょう。
ただ、結婚している、子どもがいる、親の面倒を見ているなど守るべき人がいるケースでは、たとえ若くても保険に加入しておくのが安心です。
若いから保険は必要ない、高齢だから保険に入っておいたほうがいいという考えで保険の加入を検討するのではなく、必要性に応じて加入することが大切です。
2. 非加入の理由のうち、最も多いのは経済的理由
生命保険文化センターの平成28年度「生活保障に関する調査」によると、現在、生命保険に加入していない人の非加入の理由は、「経済的に余裕がないから」という回答が48.2%と最も多くなっています。しかし、経済的に余裕がないからこそ保険が必要なのだと考えを変えたほうがいいでしょう。そもそも年齢によるリスクの大きさは保険料に反映されているので、可能性が低い若い人は保険料が安く、高齢になるほどリスクが高まり、それに従って保険料も高くなっています。
また非加入の理由として次に多いのが「生命保険の必要性をあまり感じていないので」という回答で25.6%。しかし、すでに述べたように、年齢が若く、死亡や病気などのリスクが少ないからといって加入しなくてもよいというわけではありません。繰り返しになりますが、年齢によって保険の必要性を決めるのではなく、自分の置かれている状況により判断することが必要です。
3. 保険金額の平均値も全体では低め。不安を感じている人も多い
最後に平成27年度「生命保険に関する実態調査」から、保険金額に関する調査結果を見ていきましょう。まず、加入中の保険金額について見てみると、世帯の死亡保険金額の平均は2,423万円でした。これは年々減少傾向になっています。
このうち、世帯主の死亡保険金額の平均は1,509万円。これは全世代の平均ですが、高い死亡保障が必要な子育て世代をみてみると20代(29歳以下)が1,529万円、30代、40代では2,000万円台前半という結果です。
一方で、世帯主に万一のことがあった場合に必要だと考える金額は、平均総額5,653万円となっています。いざというときには遺族年金などの公的な保障や死亡退職金があるとはいえ、保険で準備している金額と大きな開きが見られます。実際、「世帯主に万一のことがあった場合の現在の経済的備えに対して不安はあるか」という問いに対しては、「少し不安」、「非常に不安」と回答した人が68.7%にものぼります。
気になる年間払込保険料の平均は、世帯全体平均で38.5万円となっています。これは過去12年で最も低く、平成15年からは約15万円も減少しています。「支払可能保険料はどのくらいか」という設問では、平均額は年間33.9万円。実際の支払い平均額よりも低い結果が出ています。
4. まとめ:万一のときの不安はあっても余裕がなく、保険加入は控えめ
これらの調査結果からは、家計が厳しい状況の中、経済的備えに対する不安はあるものの、保険にかけるお金も減らしたいと考えている家庭が多いことがわかります。なるべく無理のない保険料で、必要な保障を確保するにはどうすればいいのかを考えた保険設計がより求められそうです。
※本記事は2020年3月時点の情報をもとに作成しています。
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