公的な介護保険で要介護認定を受けるときには、どんな手続きが必要で、どのように要介護度が決まっていくのでしょうか?
介護保険については、いざ介護を受けたり、介護をしたりといった状況になるまでは、その内容をわかっていないのが普通です。事前の経験もありませんので、なんだかよくわからないうちに手続きが進んでいってしまい、結果についての妥当性もよくわからないとか、何か違うと思いながらもどうしてよいかわからないといったことに陥りがちです。
ここでは、そんなモヤモヤした介護をしなくてもよいように、要介護認定の流れをわかりやすく説明し、認定の基準や調査内容についても紹介していきます。また、認定結果に納得がいかない場合の対応方法にもふれていますので、介護保険の申請方法についての疑問や不安をスッキリ解消することができます。
目次
1. 介護保険で要介護認定を受けるための申請方法
介護が必要な状態になり介護保険サービスを受けたいときには、公的介護保険の要介護認定を受けなければなりません。まずは、そのための手続きをご紹介します。 ※以下、介護保険というときは公的介護保険を指します。
1-1.介護保険サービスの対象者
介護保険サービスの対象者は、年齢により条件が違っています。
- 寝たきりや認知症などにより、介護を必要とする状態(要介護状態)になった人
- 家事や身じたく等、日常生活に支援が必要な状態(要支援状態)になった人
- 初老期の認知症、脳血管疾患など老化が原因とされる病気(※特定疾病)により、要介護状態や要支援状態になった人
※特定疾病 筋萎縮性側索硬化症、脳血管疾患、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、初老期における認知症、末期がん など16種類の疾病
年齢による介護保険サービスの違いについては「年齢別でみる介護保険の基本|こんなに違う!保障対象者」もご参照ください。
1-2. 要介護認定は各市区町村に申請
介護保険は各市区町村が運営を行っています。したがって、介護保険サービスを受けるための要介護認定は、居住地域の市区町村へ申請することになります。
申請は本人か家族が行いますが、高齢者支援センターやケアマネージャー、介護保険施設などに代行してもらうことも可能です。
1-3. 介護保険の申請に必要なもの
介護保険の申請については、以下の書類を用意します
- 介護保険認定申請書
- 介護保険被保険者証(40~64歳の場合は健康保険証)
- 主治医、かかりつけの病院の連絡先がわかる診察券・メモなど
介護保険認定申請書は、各市区町村の役所にあります。
1-4. 申請から認定までの流れ
要介護認定の申請をすると、調査員の訪問による認定調査と主治医から意見書の取り寄せが行われ、その結果に基づいてコンピュータによる一次判定、介護認定審査会における二次判定が行われ要介護度が判定されます。
1-5. 申請から認定までの期間
要介護認定は、原則、申請をして30日以内に行われます。 ただし、訪問調査や主治医の意見書取得に時間がかかる場合は、認定までの期間が延長されることがあります。
1-6. 認定の有効期間
介護認定を受けた場合の有効期間は、原則6ヵ月です。したがって、有効期間が終了する前に更新申請をしなければなりません。更新時も新規の場合と同様の認定手続きとなるため、有効期間終了の1ヵ月前までに更新手続きをする必要があります。なお、更新申請で認定を受けた場合の有効期間は、原則12ヵ月となります。
2. 介護保険の要介護認定の方法と基準
介護保険の要介護認定を申請すると、まず心身の状態確認が行われ、次にその結果に基づく審査判定が行われます。
2-1.心身の状態確認
心身の状態確認は、調査員の訪問による認定調査と主治医の意見書によって行われます。
(1)認定調査(訪問調査)
調査員が申請者の自宅や入院先などに訪問して、本人や家族から心身の状況についての聞き取り調査を行います。調査員は、市区町村の職員または市区町村から委託を受けたケアマネージャーが担当します。 訪問日程については、通常、事前に調査員から電話連絡がありますので、同席する家族の都合も含めて調整するとよいでしょう。
(2)主治医意見書
医学的な意見を求めるために、市区町村が主治医に依頼して意見書を作成してもらいます。主治医がいない場合は、市区町村指定医による診察が必要となります。
2-2. 審査判定
認定調査や主治医意見書の結果に基づいて審査判定が行われます。審査判定には、一次判定と二次判定があります。
(1)一次判定
認定調査の結果と主治医意見書をコンピュータに入力し、コンピュータが要介護度の判定を行います。全国一律の基準で公平に判定の指標を出すためにコンピュータによる判定が導入されています。
(2)二次判定
保健、医療、福祉などの専門家による介護認定審査会により審査されます。介護認定審査会では、一次判定結果、訪問調査の特記事項、主治医意見書にもとづいて最終的な判定を行います。
2-3. 要介護度と認定基準
審査の結果、介護の状態区分は非該当および要支援1~要介護5までの8段階に判定されます。
要介護認定は、入浴・排せつ・食事等の介護、洗濯・掃除等の家事援助、徘徊に対する探索等、歩行訓練・日常生活訓練等、医療関連の補助にかかる時間が1日にどれくらいあるかという時間によるものさしを基準にして判定されます。
介護保険における要介護度の認定基準については以下の表をご覧ください。
<要介護度の認定基準>
要介護度 | 心身状態 | 区分 |
---|---|---|
非該当 | 要介護認定等基準時間が、25 分未満 または、第2 号被保険者(40 歳以上64 歳未満)で特定疾病(16疾病)に該当しない場合 | - |
要支援1 | 要介護認定等基準時間が25 分以上32 分未満 またはこれに相当すると認められる状態 | 要介護状態となる恐れがあり、精神的・身体的に6 ヵ月継続して日常生活を行うことに支障があると見込まれる状態 |
要支援2 | 要介護認定等基準時間が、32 分以上50 分未満 またはこれに相当すると認められる状態 | |
要介護1 | 要介護認定等基準時間が、32 分以上50 分未満 またはこれに相当すると認められる状態 | 身体または障害により入浴、食事など日常生活の基本的な動作について継続して介護が必要と見込まれる状態 |
要介護2 | 要介護認定等基準時間が、50 分以上70 分未満 またはこれに相当すると認められる状態 | |
要介護3 | 要介護認定等基準時間が、70 分以上90 分未満 またはこれに相当すると認められる状態 | |
要介護4 | 要介護認定等基準時間が、90 分以上110 分未満 またはこれに相当すると認められる状態 | |
要介護5 | 要介護認定等基準時間が、110 分以上 またはこれに相当すると認められる状態 |
3. 介護保険における要介護度の認定調査の内容
介護保険の要介護度判定のための訪問による認定調査では、身体機能、生活機能、認知機能などの区分(群)について、それぞれこまかい調査項目が設定されていて、調査員が申請者の状態を詳しく確認します。その結果は介護認定の判定のための基礎データとなる大切な調査です。
具体的には、自分で体をどの程度動かすことができるか、麻痺はあるか、食事や排泄などにどの程度の介助が必要か、認知症の症状がどの程度あるか、どのような医療を受けているかなどを聞かれます。これらの調査は、全国一律の基準で実施できるように共通の調査票にもとづいて行われます。
以下に、訪問調査の概要を表にしていますのでご参照ください。
<認定調査の概要>
区分 | 調査項目 | |
---|---|---|
第1群 | 高齢者の麻痺、拘縮、寝返りといった基本的な動作や起居に関する能力 | 麻痺等の有無、寝返り、起き上がり、座位保持、歩行、立ち上がり、洗身、つめ切り、視力 など |
第2群 | 生活上の障害に対する介助の状況 | 移動、食事摂取、排尿、排便、洗顔、整髪、上衣の着脱、ズボン等の着脱、外出頻度 など |
第3群 | 認知機能の程度 | 意思の伝達、毎日の日課を理解、短期記憶、場所の理解、徘徊 など |
第4群 | 認知症等による行動障害の有無と程度 | 物を盗られたなどと被害的になる、しつこく同じ話をする、大声をだす、介護に抵抗する、一人で外に出たがり目が離せない など |
第5群 | 地域での社会生活を維持するために必要な能力や介助の状況 | 薬の内服、金銭の管理、日常の意思決定、集団への不適応、買い物、簡単な調理 |
その他 | 過去14日間に受けた特別な医療について | 点滴、透析、酸素療法、経管栄養、カテーテル など |
また、実際の調査票についてはこちらをご参照ください。 ●認定調査票(PDF|厚生労働省)
4. 正しく認定してもらうための5つのポイント
介護保険の介護認定は、コンピュータによる統計的・数量的な判定と介護認定審査会による個別の状況を考慮した総合的な判定で決定します。しかし、そのための基礎データとなる心身状態が正しく伝わっていなかったら、判定結果も間違ったものになってしまう可能性があります。
できるだけ正確な判定をしてもらうために、介護認定を受けるとき(申請するとき)には以下の5つのポイントに注意しましょう。
(1) 普段の介護の状況を整理しておく 訪問による認定調査では、さまざまな項目について聞き取り調査が行われます。急に質問されてしまって記憶があいまいではっきり答えられなかったり、調査員に伝えておきたいことがあったのに言い忘れてしまったりということが起こりがちです。そのようなことが起こらないように、普段からどのような介護をしているか状況を整理してメモをとっておきましょう。
(2) 認定調査の内容を把握しておく 事前に介護状況を整理しておくということとも関係しますが、どのような調査があるのか、どのような質問をされるのかということがあらかじめわかっていたら、正確に状況を伝えやすくなります。3章でも調査内容の概要を紹介していますので、おおまかにでも把握しておくようにしましょう。実際の調査票に目を通しておくとより理解が深まります。
(3) 認定調査には状況をわかっている家族が立ち会う 本人が一人暮らしの場合は無理ですが、家族がいる場合は必ず家族が調査に立ち会うようにしましょう。本人の認識と実際に介護している家族の認識にずれがある場合があります。また軽くても認知症の症状がある場合は、本人では正しく状況を説明できないということにもなります。本人への聞き取り調査には家族が同席して、訂正が必要なことがあれば場所を移すなどしてあらためて話をするとよいでしょう。
(4) 体裁を気にせず本当のことを話す 人には自分をよく見せたいとか恥ずかしいという意識があります。介護認定を受ける本人が、ついついよくできないことをできると答えてしまったり、問題ないと答えてしまうこともあります。しかし、そのような回答をしてしまうと介護状態が軽いと判断されてしまうことになり、結果的にデメリットになります。できないことはできないと正しく伝えるようにしましょう。
(5) 主治医とよくコミュニケーションをとっておく 介護認定の判定においては、かかりつけの主治医の意見書も重要な判断材料となります。介護認定を申請するときには、その旨を主治医に伝え、普段の家庭での介護のようすなどを伝えておくようにしましょう。このときにも、普段の介護状況を整理したメモが役立ちます。
5. 認定結果に納得がいかないときにできること
介護保険の要介護認定の申請をして判定結果が通知されたときに、本人や家族が考えていたよりも要介護度が軽く判定されてしまったとか、実際に介護しているのに認定されなかったなどといったことが起こる場合もあるでしょう。特に認定の更新の場合は、前回の認定結果と違った結果になって納得できないということがあるかもしれません。
そのようなときは、まずは市区町村の担当窓口に相談し説明を受けることが大切です。しかし、それでも納得いかないということがあった場合にできることをご紹介します。
5-1. どうしても納得できないときの3つの対処法
窓口で説明を受けても、おかしいと思ったときには以下の3つの行動をとることができます。
(1) 認定調査の情報開示
介護認定の申請をして結果を受けた被保険者は、認定調査等の資料の開示を求めることができます。これにより認定調査票や主治医意見書を開示してもらい、内容に間違いがないか等を確認することができます。
情報開示は市区町村の窓口に申請します。
(2) 不服申し立てをする(審査請求)
認定調査の情報開示を受けて内容を確認しても納得がいかないようなときには、都道府県に設置されている介護保険審査会に審査請求をすることができます。ただし、審査請求は行政処分に対する不服申し立て制度の一環という位置づけなので、法律に照らし合わせて違法性や不当性があるかどうかという点が審査されることになると考えられます。
審査請求をする場合は介護認定の通知を受けた日の翌日から3ヵ月以内に、介護保険審査会または市区町村の窓口を通して行います。
(3) 区分変更の申請をする
介護認定を受けている人が、認定期間中に介護の状態が著しく変化した場合に、要介護度の変更を申請することができます。この区分変更を利用して、あきらかに認定結果がおかしいといった場合に再度認定してもらうことも可能です。
ただし、区分変更は本来は介護状態が大きく変化したときに行うものであり、認定のやり直しのための制度ではありません。認定基準を正しく理解した上で、実情と結果が全然あっていないといった場合を除いて、安易に利用することは控えたほうがよいでしょう。
5-2.納得できないときの一般的な対処の手順
前節でみてきた3つの対処法について、一般的には以下のような考え方で利用を考えましょう。
(a)まずは、市区町村の介護保険担当窓口に説明を求める
そして、そこで納得がいかなかった場合に (b)認定調査の情報開示を求めて、調査結果を確認する
・調査結果から介護認定に不正や不当な扱いがあったと考えられる場合 → (c)審査請求
・調査結果に事実や認識が違う部分があった場合 → (d)窓口で確認しつつ、区分変更の申請を検討
6. まとめ:介護保険の認定調査は事前準備が大切
介護保険の要介護認定は各市区町村に申請します。そして、その申請にもとづいて認定調査が行われ、普段の生活においてどのような介護を必要としているのかをが判定されます。しかし、認定調査の項目は多岐にわたっていますし、介護の程度や頻度は伝え方によっては調査員に誤解を与えてしまうこともあります。したがって、スムーズに正確に調査をうけるには、事前の準備が大切です。
認定調査でどのようなことを確認されるのかを予習した上で、普段の介護状態を整理してまとめておくようにしましょう。
また、介護状態によっては、公的介護保険を利用しても介護費用が多くかかってしまう場合があります。早くから民間の介護保険などでも備えておくと安心です。
民間の介護保険の詳細と選び方については下記ページをご覧ください。 ・「どこよりも詳しい!民間の介護保険の必要性と選び方」
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