人身傷害補償保険とは?必要性や補償内容について詳しく解説

  • 公開日:2019年12月11日
    最終更新日:2022年04月06日
  • 損害保険

2022-04-06

https://www.kurashino-okane.com/sonpo/jinshin-ins/

自動車事故でケガなどをした際に、自分に過失がある場合、原則としてその分の補償を相手からしてもらうことはできません。そんな時に役立つのが人身傷害補償保険です。

しかし補償を充実させると保険料は高くなってしまうもの。「本当にこの保険を付帯する必要があるのか」、あるいは、「付帯するにしても、過不足なく補償を得るには保険金額をいくらにすべきか」、「類似してみえる搭乗者傷害保険とはどういった違いがあるのか」など、悩んでいる人も多いでしょう。

そこで、ここでは人身傷害補償保険の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、搭乗者傷害保険との違い、そして適切な保険金額まで、わかりやすく解説していきます。

1.人身傷害補償保険の仕組みと特徴とは?

人身傷害補償保険に関するさまざまな疑問を解決するため、まずはこの保険の内容をざっとおさらいしましょう。

1-1.人身傷害補償保険の仕組み

そもそも自動車を運転する際には自賠責保険に加入することが義務付けられています。しかし、自賠責保険は補償範囲が限られており、事故相手のケガ、死亡・後遺障害は補償されますが、相手の車、そして自分の車、ケガなどは補償されません。

これだけでは相手への補償も十分でないことから、多くの場合対人賠償保険や対物賠償保険にも加入します。ただし、対人賠償保険も対物賠償保険も、その名の通り相手側への損害をカバーするものなので、自分側が死傷するリスクへの補償が別途必要になります。

そこで加入するのが人身傷害補償保険です。この保険に加入することで、契約した自動車に乗っていた人(ドライバーはもちろん、家族、友人・知人など、全ての搭乗者)が事故により死傷した際、その治療費などが補償されます。事故の相手ではなく、自分や同乗者のリスクに対処できる保険なのです。

この保険の特徴としては、事故の過失が.契約者にあったとしても保険金を受け取れるということ。保険金額は治療費、休業損額、精神的損額など、実際にかかった損害分となります。

1-2.人身傷害補償保険の補償の範囲は?

人身傷害補償保険は、多くの場合、一般タイプと、搭乗中のみ補償するタイプの2種類から選ぶことができます。

一般タイプは、契約自動車の搭乗中に加えて、記名被保険者(おもに車(契約車)を使用する人として設定した人)とその家族について、バスやタクシー、友人の車など、契約自動車以外の車に搭乗中の事故も補償されます。さらに、歩行中に交通事故に遭った場合にも補償を受けることができます。

対して、搭乗中のみ補償するタイプは、その名のとおり、契約した自動車に搭乗中の人が死傷した場合に限定して補償を受けられます。補償が搭乗中のみに限定されている分、保険料も割安になります。

2.人身傷害補償保険の保険金はどのように支払われる?

では、具体的に人身傷害補償保険の保険金がどんなときに、どのように支払われるのか確認していきましょう。

人身傷害補償保険は、補償の対象となる1名につき、契約した保険金額を限度に保険金が支払われます。支払い対象となる損害は、保険会社によっても変わりますが、一般的に、ケガの場合、治療費や救助捜索費、休業損害、精神的損害など。後遺障害を負った場合、逸失利益(後遺障害を負わなければ、この先当然得られたであろう経済的利益)、精神的損害、介護料、家屋の改造費など。死亡の場合、葬儀費、逸失利益、精神的損害などです。

■人身傷害補償保険で補償される損害

損害の状況補償される損害
ケガの場合治療費、休業損害、精神的損害など
後遺障害の場合逸失利益、精神的障害、介護料、家屋の改造費など
死亡の場合葬儀日、逸失利益、精神的損害など

保険金の支払いは、実際の損額に応じた額(実損額)が補償されます。以下の例を参考にしてください。

(例)
・交通事故による契約者側の損害額が5,000万円
 ※損害額は人身傷害保険の対象となる損害とし、車の損害などは含まない
・契約者の過失割合20%、相手側の過失割合80%

 

上記ケースの補償額について

 ↓ ↓ ↓

【人身傷害補償保険に未加入の場合】

過失割合に応じて相手側から賠償されるため、5,000円×80%=4,000万円が相手側から補償されます。しかし残りの20%、1,000万円は自分で負担することになります。

 

【人身傷害補償保険に加入している場合(保険金5,000万円以上)】

人身傷害補償保険に加入している場合、契約した保険金額の範囲内であれば実損額が補償されます。つまり、5,000万円全額を受け取ることができます。ただし、相手から賠償金の一部または全額を受け取っていたら、その分が差し引かれます。

このように、過失割合に関わらず実損額を保険金として受け取ることができます。なお、保険会社によって違いますが、無免許・酒気帯び運転や地震・噴火・津波による傷害、被保険者の故意または重大な過失による傷害など、保険金が支払われないケースもあるので、事前に確認しておきましょう。

3.人身傷害補償保険のメリット・デメリット

次に、この保険のメリットとデメリットをそれぞれ確認していきます。

3-1.人身傷害補償保険のメリットは?

はじめに、メリットから見ていきましょう。

・過失割合に関わらず実損害分の保険金を受け取れる
前述のとおり、過失割合を問わず、契約した保険金の範囲内で、実際に受けた損害分の保険金を受け取ることができます。例えば、相手側に過失があるものの、相手が任意保険に加入しておらず、損害額が相手側の支払い能力を超えてしまい、本来の賠償金が受け取れないといったトラブルになることも。そんなときに人身傷害補償保険に加入していれば、過失割合に関係なく実損額が補償されるので安心です。

・示談交渉を待たずに保険金が支払われる
自分に非がない事故の場合でも、相手側との示談交渉には時間がかかってしまう場合も。そうなると相手側から賠償金が支払われるのに時間がかかり、自分のケガの治療費などの工面に苦慮することにもなりかねません。人身傷害補償保険に加入していれば、損害賠償金について相手側との交渉がまとまらなくても治療費や慰謝料を保険会社がスピーディに支払ってくれるので、当面必要な費用が確保できます。

・等級が下がらない
事故で自動車保険を使うとノンフリート等級が下がり、それにともない保険料がアップします。しかし、人身傷害補償保険だけを使った場合、翌年の等級に影響を与えません。ただし、同時に対人賠償保険や対物賠償保険などを使った場合には、翌年の等級は下がります。

・歩行中、タクシー、自転車など契約車両以外での事故も補償される
契約した自動車に搭乗している時の事故だけでなく、歩行中やタクシー、バス、自転車などで事故に遭って負った傷害も補償されます。ただし、契約時に「搭乗時のみ補償」のタイプを選んだ場合は、この補償は受けられません。

3-2.人身傷害補償保険のデメリットは?

次に、デメリットを見ていきましょう。

・補償が手厚くなれば保険料は上がる
補償を手厚くするほど保険料は上がります。保険料の支払いが家計を圧迫しないように、どれぐらいの補償が必要なのか、他に加入している補償なども加味して考える必要があります。

・相手からの賠償金がある場合、保険金を相殺される
実際の損害額が5,000万円だったとしても、相手から賠償金が3,000万円支払われるといった場合には、その金額を相殺した2,000万円を受け取ることになります。ちなみに、この後で解説する「搭乗者傷害保険」は、相手からの賠償金などに影響を受けず、あらかじめ決まった額を受け取ることができます。

4.人身傷害補償保険への加入は必要?

保険料の負担はできるだけ減らしたいものです。そうなると、まず優先すべきは事故相手への補償でしょう。自賠責保険で補償できない部分は、対人賠償保険、対物賠償保険に加入(十分な補償額で)することで、相手側への補償は必要十分になります。

人身傷害補償保険は、自分や同乗者に対する補償なので、どうするかは自分次第です。自分や同乗者への補償が保険で得られなくても本当に大丈夫かを考えましょう。車に乗る頻度が多い、生命保険など他の保険に加入していない、いざという時に使える十分な貯金がない。あるいは、友人など家族以外が車に同乗することがよくある。こんな場合には、人身傷害補償保険に加入しておくのが無難です。

保険料が高いことが加入のネックになるならば、補償範囲の狭い「搭乗中のみ補償するタイプ」を選んだり、保険金額を下げるといったことを検討しましょう。ただし、せっかく加入してもいざという時に補償が不足するのでは本末転倒です。必要十分な補償が得られるよう慎重に検討することをおすすめします。

5.人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険の違いとは?

搭乗者傷害保険とは、契約中の自動車の事故で搭乗者が死傷した場合に、死亡・後遺障害・治療費がかかったときに保険金が支払われる保険です。その名の通り、搭乗者全員が補償対象となります。人身傷害補償保険が、保険金額を上限として、治療費などの実損害を補償するのに対し、搭乗者傷害保険はあらかじめ契約時に決めた金額を、入通院の日数や、後遺障害などの程度に応じて受け取ることになります。

また、デメリットの項目でも触れましたが、人身傷害補償保険は相手から賠償金が支払われているとその分を差し引いた額が支払われますが、搭乗者傷害保険はその影響を受けないという点も違います。

自分に対する補償を付けたい場合、メインになるのは実損を補償する人身傷害補償保険搭乗者傷害保険は、その補償にさらに上乗せしたいときに選ぶという位置づけになります。1つの事故でも両方加入していれば保険金はそれぞれ受け取れるため、補償はより手厚くなります。しかし、その分保険料は高くなるので、その補償が本当に必要か考えることが必要です。

なお、搭乗者傷害保険の取り扱いがない保険会社や、人身傷害補償保険に加入していると搭乗者傷害保険に加入できない場合もあるので、合わせて確認しましょう。

■人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険との違い

 人身傷害補償保険搭乗者傷害保険
補償の対象事故時に対象の自動車に乗っていた人全員事故時に対象の自動車に乗っていた人全員
補償の内容治療費、休業損害、精神的損害など死亡、後遺障害、ケガでの入通院
補償の範囲車内または車内と車外両方車内のみ
保険金の支払い治療費などの実際の損害額が支払われるあらかじめ決まった額が支払われる
(一時金)
支払時期示談を待たず、実損害額が確定したら医師の診断による入院や通院の合計日数が所定の日数を経過したら

搭乗者傷害保険について詳しく知りたい方は、「搭乗者傷害保険は必要?人身傷害補償保険との違いとは?」の記事を参考にしてください。

6.人身傷害補償保険の保険金額はいくらが適切?

人身傷害補償保険の保険金額は、3,000万円~5,000万円を選ぶのが一般的なようです。ただし、どれぐらいの補償が必要かは人それぞれ。契約者の年齢、収入、扶養者の人数などを考慮して決めましょう。保険料の安さばかりを優先すると、いざというときに必要な補償を得られないということも。

人身傷害補償保険だけではなく、他の生命保険などによる補償も合わせて、万一のときに困らないよう万全の補償を得られるようにしておきましょう。

7.まとめ:人身傷害補償保険は、加入している保険を考慮した上で検討を

ここでは、人身傷害補償保険の補償内容から、メリット・デメリット、搭乗者傷害保険との違いまで詳しく解説をしてきました。必要かどうか、保険金額をどうするかは人それぞれで、一概に「必ず加入するもの」とも「保険金額はこの額で十分」ともいえるものではありません。他に加入している保険も考慮しながら、加入について検討するようにしましょう。

株式会社 回遊舎(編集・制作プロダクション)執筆:株式会社 回遊舎 (編集・制作プロダクション)
金融を専門とする編集・制作プロダクション。多数の金融情報誌、ムック、書籍等で企画・制作を行う。保険、身近な家計の悩み、投資、税金、株など、お金に関する幅広い情報を初心者にもわかりやすく丁寧に解説。

※記事内容の利用・実施に関しては、ご自身の責任のもとご判断ください。

※掲載している情報は、記事公開時点での商品・法令・税制等に基づいて作成したものであり、将来、商品内容や法令、税制等が変更される可能性があります。また個別の保険商品の内容については各商品の約款等をご確認ください。