車に乗っている人が事故でケガを負ってしまった場合の損害を補償するのが、搭乗者傷害保険。自動車保険に加入したことがあれば一度は目にしたことがあると思いますが、「搭乗者傷害保険は必要なのか?」「補償額はいくらに設定すべきか?」「人身傷害補償保険とはどのように違うのか?」 など、疑問を持った人もいるでしょう。
そこで今回は、搭乗者傷害保険の基本的な仕組みから、メリット・デメリットや人身傷害補償保険との関係、そして適切な補償額まで、わかりやすく解説します。
目次
1. 搭乗者傷害保険の概要
搭乗者傷害保険について、まずはその仕組みや保険金の支払われ方についてしっかり理解しましょう。
1-1. 搭乗者傷害保険の仕組み
搭乗者傷害保険とは、契約中の自動車(被保険自動車)の事故により搭乗者が死傷した場合に、死亡保険金・後遺障害保険金・医療保険金が支払われる保険。運転手だけでなく同乗者も含めた搭乗者全員が補償の対象となります。
つまり、契約者本人はもちろん、同乗している家族、友人なども対象となるのです。また、他の保険金や賠償金が支払われている場合も、それらの影響を受けずに保険金を受け取ることができます。なお、受け取る保険金額は、契約時に決めた金額となります。
1-2. 保険金の支払い方法は?
では、保険金はどんなときに支払われるのかを見て行きましょう。
搭乗者傷害保険は、加入時の契約に基づいて、ケガでの入通院に対する保険金、死亡した場合の死亡保険金、後遺障害を負った場合の後遺障害保険金が支払われます。
ケガでの入通院に対しては、以前はケガの部位・症状に応じた保険金が支払われるという契約が主流でした。しかし現在は、ケガの部位、症状に関わらず「5日以上入院または通院した場合には一律10万円、5日未満の場合は一律1万円」といった定額払いタイプが多くなっています。実際に治療などにかかった費用にも影響を受けません。
補償対象者が死亡した場合は、1名あたり500万円~2,000万円など、契約時に決めた死亡保険金が支払われます。
また、後遺障害を負った場合の後遺障害保険金は、その程度に応じて1名につき保険金額の何%が支払われるかが決定します。
なお、入通院、死亡、高度障害ともに、その状態になったのが事故の発生から180日以内という条件がつくのが一般的です。
1-3. 保険金が支払われないケースもある!
搭乗者傷害保険を契約している自動車に乗っていて事故にあったからといって、必ず保険金が支払われる、というわけではありません。保険金支払いの条件は保険会社によって違うため確認が必要ですが、たとえば、以下のような理由による事故では、保険金支払いの対象外になることがあります。
- 被保険者の故意または重大な過失による事故 ・酒気帯び、無免許、麻薬吸引等の状態での運転による事故
- 箱乗り等危険な運転による事故
- 地震、噴火、津波(地震、噴火による)による事故
2. 搭乗者傷害保険のメリット・デメリット
次に、搭乗者傷害保険に加入すると、どんなメリット・デメリットがあるのかを整理していきます。
2-1. 搭乗者傷害保険のメリットは?
まずは、メリットを見ていきましょう。
・他の保険金や賠償金の影響を受けずに受け取れる
冒頭でも少し触れましたが、自賠責保険や事故相手からの損害賠償金が支払われていたとしても、それとは関係なく保険金を受け取ることができます。
・保険金の支払いがスピーディー
実損害に応じた保険金額ではなく、あらかじめ契約時に決めた額を受け取るため、保険金の支払いが迅速。当面必要な費用をすぐに確保することができます。
・契約者の過失割合を問わない
仮に100%契約者の過失の事故であっても、保険金を受け取ることができます。
・等級が下がらない
事故で自動車保険を使うと、ノンフリート等級が下がり、その結果保険料がアップします。 しかし、搭乗者傷害保険の場合、保険金を受け取っても等級が下がりません。そのため、事故後(保険金受取後)に、保険料がアップしてしまうという心配をする必要がありません。
※同時に、等級が下がる別の保険を使っている場合を除く
2-2. 搭乗者傷害保険のデメリットは?
次に、デメリットを見ていきましょう。
・保険金が定額のため超過分は自己負担となる
保険金は契約であらかじめ決まった額しか支払われません。そのため、もしもそれ以上の金額が治療等にかかったとしても、その分は自分で負担することになります。
・補償は充実するが保険料は割高になる
メリットが多い分、この補償を付けることにより保険料は高くなります。また、この後で解説する「人身傷害補償保険」と補償が重複する可能性があります。
3. 人身傷害補償保険との違いとは?
搭乗者傷害保険について多い疑問が、人身傷害保険との違いや重複についてです。そこで、まずはこの2つの保険の違いを確認していきましょう。
3-1. 人身傷害補償保険とは
人身傷害補償保険とは、自動車事故等で契約者や同乗者が死傷した際に保険金を受け取ることができる保険です。補償の対象となる1名ごとに、過失割合を問わず保険金が受け取れるのは、搭乗者傷害保険と同じです。
3-2. 人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険の補償内容の違い
人身傷害補償保険と搭乗者傷害保険との大きな違いは、人身傷害補償保険は治療費・休業損害・精神的損害(慰謝料)など、実際にかかった損害分を補償しますが、搭乗者傷害保険はここまで解説したとおり、実際の損害に関わらず、契約時に決めた一定額が補償されるという点です。
また、搭乗者傷害保険が事故相手からの損害賠償金などと一切関係なく保険金を受け取れるのに対し、人身傷害補償保険は、事故の相手側から損害賠償金や労働者災害補償制度の給付金などを受け取っている場合、その金額を差し引いた額を受け取ることになります。
また、人身傷害補償保険には、車外の事故も補償するタイプがあり、そのタイプを選ぶと、契約者及び家族がバスやタクシー、知人の車などに搭乗しているときや、歩行中、自転車搭乗中の事故による傷害についても補償が得られます。この点は、搭乗者傷害保険にはないメリットといえます。
■搭乗者傷害保険と人身傷害保険との違い
搭乗者傷害保険 | 人身傷害補償保険 | |
---|---|---|
補償の対象 | 事故時に対象の自動車に乗っていた人全員 | 事故時に対象の自動車に乗っていた人全員 |
補償の内容 | 死亡、後遺障害、ケガでの入通院に対する一時金など | 治療費、休業損害、精神的損害など |
補償の範囲 | 車内のみ | 車内または車内と車外両方 |
保険金の支払 | あらかじめ決まった額が支払われる | 治療費などの実際の損害額が支払われる |
支払時期 | 医師の診断による入院や通院の合計日数が所定の日数を経過したら | 示談を待たず、実損害額が確定したら |
4. 搭乗者傷害保険は必要?人身傷害補償保険との重複はどうなる?
では、ずばり搭乗者傷害保険は必要なのでしょうか?
4-1. 自分や同乗者が死傷した際の補償として必要
そもそも、自動車の保険には強制加入の「自賠責保険」があります。しかし、自賠責保険は事故を起こしたとき、相手側に対する補償しかされません。相手がケガをしたり、死亡・後遺障害になると、保険金が支払われますが、相手の車、自分の車、自分のケガは補償されないのです。
また相手側に対する補償額も十分とはいえず、そのため、相手の損害をカバーするために「対人賠償保険」「対物賠償保険」に加入するのが一般的です。ただし、対人賠償保険、対物賠償保険はともに事故相手の損害をカバーするものです。
ですから、自分が死傷した際の補償や同乗者への十分な補償を確保するために、人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険の加入が必要になるわけです。
4-2. 補償を手厚くしたり素早く保険金を受け取るために必要
一般的には、搭乗者傷害保険は人身傷害補償保険に上乗せする形で加入します。人身傷害補償保険で実損害分の保険金を確保しつつ、さらにその補償を手厚くしたい場合に、搭乗者傷害保険に加入するのがよいでしょう。
人身傷害補償保険の保険金支払いは比較的スピーディですが、損害額がいくらかを判断する時間はかかります。搭乗者傷害保険は、あらかじめ金額が決まっているので、より素早く保険金を受け取ることができます。そのため搭乗者傷害保険は、人身傷害補償保険に入っていたとしても必要性のある保険です。
4-3. とはいえ補償の重複には十分に注意を
ただし、これら2つの補償は重複しているので注意が必要。家族全員がどんな保険に加入していて、どんな補償があるのかを確認し、保険料をムダに支払うことにないようにしましょう。
なお、搭乗者傷害保険自体の取り扱いがない保険会社や、人身傷害補償保険に加入している場合、搭乗者傷害保険には入れない保険会社もあるので、そちらも確認が必要です。
5. 補償額の目安はいくらぐらい?
搭乗者傷害保険の場合、死亡・後遺障害の保険金額は1,000万円が基本です。保険会社によって、これよりも小さい金額、大きい金額(500万円~2,000万円など)を選べる場合もあるので、自分が必要だと思う金額を見極める必要あります。保険会社によって補償額の選択肢が違うので、比較検討を行いましょう。
また、当然ながら、保険金額が大きければ保険料は高くなるので、過不足ない選択を心がけてください。
6.まとめ: 搭乗者傷害保険は人身傷害補償保険との違いも理解した上で加入しよう
ここでは、搭乗者傷害保険の仕組みから、メリット・デメリット、人身傷害補償保険との違いや必要性、補償額の目安などについてご紹介しました。人身傷害補償保険との違いが分かりづらいですが、ここでの解説を読んで理解いただけたのではないかと思います。
搭乗者傷害保険は自分にとって必要か、必要ならばいくらの補償額に設定するか等、きちんと考えてから加入をするようにしましょう。
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